門司港・下関から鞘ヶ谷のホタル観賞
出発前の腹ごしらえは、八幡西区の今浪うどん。やわらかい麺に甘辛く炊いた牛肉をどっさりのせた肉うどんを、(゚д゚)ウマカーとすすって旅のエンジンをかける。門司港に着くころには雨がぽつぽつ——傘は忘れた。それでも噴水広場に建つレトロな門司港駅のまわりは観光客でにぎわい、台湾や香港からの旅人の姿も多い。福岡市は韓国の人に、北九州は台湾や香港の人に人気らしい。雨宿りがてら赤レンガの関門海峡ミュージアムへ。上から下へ降りていく青く光る大エスカレーターが楽しくて、源平合戦や幕末を模した人形たちが海峡の歴史を語りかけてくる。旧大連航路上屋に元門司市役所——建築好きにはたまらないレトロ建築が、海辺にずらりと並ぶ。
門司港名物の焼きカレーは、十数年ぶりの再会。もともとは余ったカレーを焼いて食べた家庭の味が、名物になったのだとか。とろけたチーズと卵が、意外なほど上品でくどくない。電気通信レトロ館で色とりどりの公衆電話や黒電話に懐かしさをくすぐられ、甲宗八幡宮では平知盛の墓と下関要塞の石碑に手をあわせる。海沿いの和布刈神社では、鳥居ごしの関門橋の下をコンテナ船がすべり抜けていった。そしていよいよ関門トンネル人道へ——エレベーターで海面下へ潜り、海の底をとことこ歩く。海底なのに電波は普通に入るし、ランニングする地元民とすれ違う。やがて「本州 MAINLAND / 九州 KYUSHU」の境をまたいで、本州キタ━━!!
下関側に出れば、そこは壇ノ浦の古戦場。碇を担いだ平知盛の像が、海へ沈む覚悟で関門橋をにらんでいる⚓ 幕末にここから異国船を撃った長州砲のレプリカも、海をまっすぐ向いていた。竜宮城のような朱の水天門をいただく赤間神宮は、壇ノ浦で入水した幼い安徳天皇をまつる社。英国領事館の赤レンガや、ドーム天井の唐戸商店街をめぐって、坂のまちをのぼれば、猫がそこらじゅうでくつろいでいる。韓国情緒ただよう釜山門をくぐって下関駅へ戻り、また海をくぐって九州へUターンU。
そして夜。北九州・戸畑の鞘ヶ谷ホタル公園へ。着いたころはまだ明るく、夕焼けのなかカラスの縄張りに威嚇されながら、暗くなるのをじっと待つ——と、キタ━━!! 谷あいにぽう、ぽうと灯がともり、やがて無数の光がゆらめきはじめた。今までで一番かもしれない、幻想的な蛍の乱舞。公園のゲートのホタルまで点いたり消えたり、芸が細かい。帰り道、真っ赤にライトアップされた若戸大橋を見上げて、梅雨入りの長い一日を締めくくった。
関門海峡と壇ノ浦
本州と九州をわずか700mで隔てる関門海峡は、瀬戸内海と響灘をむすぶ海の難所。潮の流れは速く、瀬戸内へ向かう船と響灘へ向かう船では進むスピードがまるで違う。1185年、この壇ノ浦で源平最後の合戦がくり広げられ、追いつめられた平家は幼い安徳天皇とともに海へ身を投じて滅びた。海上には1973年開通の関門橋、海面下58mには歩いて渡れる関門トンネル人道(1958年開通)が通り、本州と九州の県境ラインが足もとに引かれている。
ホタルの夜
蛍は水のきれいな谷川に棲み、初夏の夜、求愛のために淡い光を明滅させる。北九州・戸畑の鞘ヶ谷は市街地にほど近いホタルの名所で、六月の夜にはふわりふわりと光が舞う。見頃は日没後しばらく、風のない蒸し暑い晩がよいとされる。観賞のときは強い光は厳禁——懐中電灯やスマホの明かりは蛍を驚かせ、光をとめてしまう。闇に目が慣れるのを待って、ただ静かに見上げるのが作法だ。