福岡から関東入り、蕨泊
旅のはじまりは、関東の用事をひとつ片づけてから。その日の宿は、なぜか中山道の宿場町・蕨。「蕨なのに蕨は生えないのか」なんて軽口をたたきながら、夜の駅前に降り立つ。
夜食は蕨の日高屋で、とんこつニラ南蛮をずず。名物でもなんでもない一杯だけれど、旅先の夜にすする中華そばはどうしてこんなに沁みるんだろう。明日の桜にそなえて、早めに眠る。
東北新幹線で仙台へ、一目千本桜を歩く
朝ごはんが無料で、なかなかいいホテルだった。せっかく蕨に泊まったので、中山道蕨宿をひとめぐり。和楽備神社に手をあわせ、板や棒をびっしりまとった妙に凝った市役所を眺めて、宿場町の名残をたどる。
そして東北新幹線で、いざ北へ。車内はほとんど満席——きっとみんな桜めあてだ。岩沼で臨時列車に乗り換えて船岡に降りると、もう目の前に🌸🌸🌸。白石川ぞいの一目千本桜は、満開のトンネルがどこまでも続いていて、歩いても歩いても桜がなくならない。日が挿すとちょっと暑いくらいの、まばゆい午後だった。
船岡城址公園の坂をのぼって山頂へ。ずっと来たかった場所からの眺めは、ピンクの帯のような桜並木と、そのむこうにかすむ山なみ。下山して大河原まで、しばた千桜橋を渡りながら白石川堤をさらに歩く。桜に花桃、連翹の黄色までまじって、春が洪水みたいに押し寄せてくる。日が傾くころ仙台へ戻り、半田屋でしっかり腹ごしらえ。高速バスでいわきへ移動して、長い一日を閉じた。
一目千本桜
宮城県柴田町・大河原町を流れる白石川の堤、約8kmにわたって約1200本の桜が連なる桜並木。大正時代に地元出身の実業家が苗木を寄贈したのがはじまりとされる。満開の時期には、川面にせり出す桜の帯の向こうに、残雪をいただく蔵王連峰が望めるのが絶景。隣接する船岡城址公園は、山頂へ斜行するスロープカーと展望台から、桜のトンネルをまるごと見下ろせる名所だ。
いわきから日立・水戸を巡り茨城空港から帰福
三日目はあいにくの雨もよう。いわきから常磐線で南下し、日立へ。海に向かって総ガラス張りの日立駅をのぞいてから、お目当ての「おふくろ弁当」のからあげ丼を。肉全体を覆う厚めの衣がたわし好み、卵でとじてしっとり、中の肉はプリッとしてほんのりコショウが香る——雨の日のごちそうだ。
水戸に着くと、雨はポツポツ。駅前では水戸黄門ご一行(助さん・格さん)がお出迎え。徳川御三家・水戸の城下町を歩き、弘道館へ。幕末にイキり散らかしていた水戸の勢いが、「尊攘」の掛け軸や質素な畳の間のすみずみに残っている。復元された水戸城の大手門、白壁の角櫓、そして天を突く水戸芸術館のタワーも見上げた。
お目当ての和菓子屋「木村屋本店」は、まさかの日曜定休で︻定休日︼( ゚д゚)ホゲェ。アーケードなのに雨に降られながら駅へ戻り、茨城空港から福岡へ。帰り着いてのトンカツは、佐賀の豚に沖縄の塩——肉がばり柔らかくて、🍚が止まらない。春をおいかけた旅の、しあわせな〆だった。
弘道館と水戸
水戸藩第9代藩主・徳川斉昭が1841年に開いた、日本最大級の藩校。武芸だけでなく医学・天文・和歌まで学べる総合学府で、幕末の「尊皇攘夷」思想の一大拠点となった。最後の将軍・徳川慶喜も幼少期をここで学んでいる。隣接する水戸城跡は、土塁と空堀の遺構に大手門や二の丸角櫓が復元され、城下には水戸黄門こと徳川光圀の物語が今も息づく。梅の名所・偕楽園とならぶ、水戸のもうひとつの顔だ。