天神から直方へ、航空祭の前泊
旅のはじまりは天神。なぜか無性にカツが食べたくなって、人気店「かつ丼わか葉」へ。店内に飛び交うのは中国語と韓国語ばかりで、すっかり観光客に見つかったお店らしい。カツにはタレがかかり、下にはとろとろの卵。飾りだと思っていたわさびが、タレと卵に驚くほど合う。蓋を皿がわりにして、完成度の高い一杯をたいらげた。
そこからは高速バス「なかたに号」で小倉へ。日が暮れた駅前はもうクリスマスの気配だ。翌日の航空祭にそなえ、本当は基地の近くに泊まりたかったけれど宿はとうに満室。無駄に遠回りして、この夜は直方のまちに落ち着いた。昼のカツがまだ胃に残っていて、夕飯は抜きにして早めに眠る。
築城基地航空祭
航空自衛隊・築城基地(福岡県築上町)で催される航空祭。F-2戦闘機を擁する第8航空団の本拠地で、機動飛行や装備品の地上展示に全国からファンが集まる。基地本体は築上町にあるが、滑走路の多くは隣の行橋市側にかかっているのが面白い。人気ゆえ近隣の宿は早くに埋まり、この旅も前泊は少し離れた直方からの参戦になった。
築城基地航空祭、そして削られた神の山・香春へ
夜明け前に直方を発ち、小倉・行橋とのりついで満員電車で築城へ。駅裏には臨時の出口までできていた。基地への道はもう人、人、人。『築城基地航空祭2024』の青いゲートをくぐると、イベント開始前からすでに戦闘機が空を舞っている。基地防空用のSAMランチャーにレーダーカー、装輪の機動戦闘車——地上展示をひやかしているだけで、音と振動が腹に響く。
オープニングを飾ったのは、十数機のF-2が組む大編隊。これがいちばんの見ものだった。航空自衛隊創設70周年の記念塗装機が二機、エプロンに並び、やがて空へ。機動飛行の急上昇・急旋回はスゲーの一言、着陸ではパラシュートのような減速傘がひらく。海上自衛隊のUS-2飛行艇がのっそり飛来すると、F-2のあとではゆっくりすぎて落ちないのが不思議なほど。圧巻は模擬空対地射爆撃——会場を敵艦に見立て、四方八方からヒットアンドアウェイで襲いかかってくる。迎撃する側の気分で、こんなの絶対勝てないと半泣きになった。合間には基地の厚生センターの唐揚げ、食堂では“Wからあげカレー”まで平らげる。
期待よりずっと面白かった、と満足して混む前に離脱。帰りは太陽交通のバスで香春に抜ける。道の駅にある「山小屋」でラーメンを一杯——煮卵がとびきりうまい。腹ごしらえのあとは香春のまちをぶらり。鏡山大神社に旧藩庁門、むかしは香春が田川の中心だったという。そして高台から町を見下ろすと、奥には巨大なセメント工場。町の名の由来になった神の山・香春岳は、この産業のために半分ほど削られてしまった。神の山を削って町は栄える——どうにも罰当たりに見えて切ない。天神直通のバスで、濃い一日を持ち帰った。
削られた神の山・香春岳
香春の町の背後にそびえる三つの峰からなる山。古くは山そのものがご神体とされた霊場で、万葉集にも詠まれた景勝だった。ところが良質な石灰石の産地であったため、一ノ岳はセメント原料として採掘され、いまでは山頂が平らに削り取られ、往時の半分ほどの高さになってしまった。町の名の由来にもなった神の山を削って町は栄える——その痛ましさは、スレでも『アニメ映画が一本撮れる』と語られたほど。