大雨の徳地・防府 周防国分寺と毛利博物館
旅のはじまりは新山口。けれどこの日は、朝から災害級の土砂降りだった。傘で歩けるような雨ではなく、乗りたい路線のバス停を探して回っているうちに、初っぱなからずぶ濡れ。予定していた道の駅めぐりはあっさり放棄して、ひたすらバスと汽車を乗り継ぐ一日に切り替える。窓の外は、浮世絵の線のように雨が降りしきっていた。
ロハス島地温泉という愉快な名前の乗り継ぎ地をへて、新南陽で途中下車し、駅うどんの肉うどんをすする。細めの麺は福岡のそれとはまるで別もの。雨がようやくやんだ防府は、放浪の俳人・種田山頭火のふるさと。「雨あがり蒸し暑くてひとり」——そんな自由律俳句の気分で、防府天満宮、立派な金堂の残る周防国分寺、毛利さんの邸宅と庭園をめぐる。日が暮れて、地元で人気の洋食店へ。肉がほろりと崩れるベーコンエッグハンバーグで、濡れた一日をあたためた。
種田山頭火と防府
「分け入っても分け入っても青い山」——五七五にとらわれない自由律俳句で知られる放浪の俳人・種田山頭火は、ここ防府の造り酒屋の家に生まれた。裕福な生家は父の代に傾き、山頭火自身も酒造業の失敗や出奔を重ね、やがて笠と鉢を手に全国を歩く行乞の旅へ。酒の句が多く、どこかさみしく、どこかおかしい。雨に降りこめられた周防路の一日は、その句のつぶやきがよく似合う。
秋穂・阿知須から宇部へ ときわ公園と石炭のまち
昨日がうそのような、気持ちのいい秋晴れ。朝の汽車で大道へ下り、山頭火が酒造業で起死回生をかけた種田酒造の名残をひやかしてから、瀬戸内沿岸に点々と残る明治の石風呂をのぞく。もとは僧侶が伝えた蒸し風呂だというから、いわば元祖サウナだ。アウトドアフェスの渋滞にバスごと「ぶち込まれ」つつ、阿知須の白壁の町並みを抜けて宇部へ向かう。
宇部といえば、ときわ公園。人造湖のまわりの広い園内に、UBEビエンナーレ入選作の彫刻がにょきにょきと立ちならぶ、まるごと屋外美術館だ。石炭で栄えたまちらしく竪坑櫓の立つ石炭記念館があり、ぶちでかいペリカンが暮らし、庵野秀明の故郷らしく湖には「ロンギヌスの槍」まで刺さっている。猫だらけの銀天街を抜け、工場地帯にどっしり構えるUBEを眺めてまちへ。〆は地酒「貴」に、炙りたての宇部かまと、小麦粉いらずの本当の“たこ焼き”。各駅停車の周防路は、厚狭から新幹線で福岡へと帰っていった。
宇部とエヴァンゲリオン、そして石炭
宇部は、映画「シン・エヴァンゲリオン」の監督・庵野秀明の出身地。ときわ公園の人造湖に突き刺さる巨大なオブジェは、ファンにはおなじみ「ロンギヌスの槍」として親しまれている。もともと宇部は石炭で栄えた企業城下町で、海底炭鉱を支えた竪坑櫓が石炭記念館に遺る。炭鉱が閉じたあとは、化学工業の宇部興産(現UBE)と、彫刻の国際展「UBEビエンナーレ」がまちの顔に。産業と芸術が同居する、ちょっと不思議なまちだ。