加治木・蒲生の麓集落と大クス、入来温泉泊
旅のはじまりは博多駅。新幹線に飛び乗って、まずは朝ご弁の松栄軒をひらく。南へ下るほど車窓の緑が濃くなって、加治木でクロちゃんを組み立てれば、もう旅の体になっている。あぜ道には彼岸花がちらほら、稲刈りのすんだ田とまだ黄金の田がまだらに続く。
まずは島津義弘をまつる精矛神社へ、旅の無事を願ってペコリペコリ。板井手の滝と石橋で涼をとり、苔むした龍門寺坂の石畳をコトコト下る——「すべる注意」だらけの道を、クロちゃんを担いで慎重に。市街地のすぐそばには、百選にも数えられる龍門滝が豪快に落ちていた。日露戦争の凱旋門にボンジュールと挨拶して、お昼は蒲生の蕎麦屋で平打ちの特製そばをすする。鮎出汁がばりうまい。
蒲生といえば、太さ日本一とうたわれる大クス。自称かと疑っていたけれど、根元に立つと確かにこれは日本一かもしれない、と素直に思う貫禄だった。蒲生麓の武家町を抜け、掛橋坂の石畳をもう一度のぼって薩摩川内の入来へ。今夜は静かな温泉宿で、市来で買った鳥刺しを肴に一日をほどいた。
日本一の大クス
蒲生八幡神社の境内に根を張る「蒲生のクス」は、幹まわり約24m・推定樹齢約1500年とされ、幹の太さでは日本一の巨樹。国の特別天然記念物にも指定されている。根元にはほこらが収まるほどの大きな空洞があり、見上げれば空をおおう枝葉が、長い時間を静かに生きてきたことを物語る。姶良一帯はシラス台地と火山がつくった地形で、滝や巨石のジオスポットも点在する土地だ。
市比野温泉から串木野、川内から帰宅
朝風呂から一日がはじまる。澄んだアチアチの鉄臭い湯と、濁った析出系の湯——ふたつの湯を味わってから出発する。彼岸花の咲くあぜ道を抜け、鉄道の廃された旧樋脇駅の跡をのぞく。線路が残っていれば、この辺りももっと気軽に来られるのにね。
寂れながらも温泉街らしい風情の市比野温泉に立ち寄り、道ばたの「世界一温泉」というあやしい看板に惹かれてのぞいてみる。かなりアヤシイけれど、お湯は本物——無色透明のぬるすべ美肌の湯で、飲んでもおいしい。あちこちで稲刈りがはじまった田を横目に、海沿いのいちき串木野へ下っていく。
串木野に着けば、徐福がここから上陸したという伝説の地。海べりの赤鳥居に手をあわせ、規模の大きな商店街を抜ける——立派なのに閑散として、少し物悲しい。お目当ての名物マグロラーメンは、丼の底にわさびがしのばせてあって、出汁がほんのりわさび風味で(゚д゚)ウマー。炙った漬けマグロがのる一杯に、餃子と稲荷がついてくる。峠を越えて、川内ゴーーーール。駅前ホテルの湯で汗を流して、新幹線で帰路についた。
薩摩の麓(ふもと)と石畳
薩摩藩は城下に武士を集めず、領内各地に「麓(ふもと)」と呼ばれる武家集落を分散して置いた(外城制)。蒲生麓や入来麓はその代表で、入来麓は国の重要伝統的建造物群保存地区にも選ばれている。石垣と生垣に区切られた区割りや武家門が今も残り、集落をつなぐ龍門寺坂・掛橋坂などの石畳の坂道は、人や物を運んだ往還の名残。苔むした石は風情がある一方よく滑り、自転車にはなかなかの難所だった。