高千穂、天岩戸の神話をたどる
早朝の福岡を発ち、熊本で高速バスに乗り継いで、山あいをぐんぐん上って高千穂へ。真新しいバスセンターに降り立つ頃にはもう昼過ぎ、残暑のアツさにやられつつ、まずは「のぶ」でひさしぶりのうなぎ。宮崎県産まるごと一匹、ご飯と別々の白焼きも追加して、むっちりからのふんわりにひとり悶絶する。
腹ごしらえのあとは、いよいよ神話の里へ。天照大神が身を隠したという天岩戸神社、岩戸川をさかのぼった先の天安河原は、クリアブルーの水と無数の積み石がつくる、不思議な祈りの場。坂を登れば高千穂の棚田が段々と広がり、七本杉なのに数えると九本ある杉並木で、思わず首をかしげた。
三田井の宿に落ち着いて、夜は高千穂神楽へ。灯のともる参道をのぼり、岩戸開きの神話を舞で見せる神楽を鑑賞する。天岩戸系の舞は意味をつかみづらいけれど、最後にイザナギ・イザナミが登場する一幕はとびきりわかりやすくて面白い。高千穂の夜は、しみじみと更けていった。
天岩戸神話
弟スサノオの乱暴に怒った天照大神が天岩戸にこもると、世界は闇に包まれた。困りはてた八百万の神々は天安河原に集まって相談し、アメノウズメの神がかりの舞と、岩戸の前の大騒ぎにつられて天照がそっと顔をのぞかせた瞬間、力自慢の神・手力男命が岩戸を開いて世に光が戻った——高千穂は、この神話の舞台とされる地だ。天岩戸神社では岩戸そのものをご神体として拝み、夜神楽はこの物語を今に舞い伝えている。
山都・八朔祭、自然でつくる大造り物
高千穂を離れ、ごかせ号で山をこえて熊本・山都町へ。この日のお目当ては八朔祭。江戸時代から続く祭りの主役は、町の人たちが手づくりする巨大な「大造り物」だ。肌は松ぼっくり、蛇腹は鬼灯、腹巻きは貝殻、たてがみは流木や羽根——身近な自然の素材だけで組み上げた高さ数メートルの獣や神が、通りにずらりと並ぶ。
閻魔大王に弁慶、サイにフグに龍、麦わら帽子までちゃんと麦わらのルフィ——「その辺のおっちゃんたちが作っている」とは信じられないクオリティに、ただただ唸る。13時からの引き回し審査では、一基ずつ入場して、作り手がモチーフと材料を説明し、審査員の先生方が周りを回って品定め。辰年にちなんで、今年は龍が多めだった。
矢部のケンチキ——スパイスの効いた唐揚げでブランチして、ほど近い通潤橋へ。熊本行きのバスに揺られ、緑川沿いの棚田を眺めながら桜町バスターミナルへ。〆は黒亭のラーメン。マー油の香る熊本の一杯をすすって、夜の福岡へ帰り着いた。
八朔祭の大造り物
山都町(旧・矢部町)に二百年以上続く八朔祭の名物。竹や杉で骨組みを組み、松ぼっくり・鬼灯・貝殻・流木・木の実など、自然の素材だけで、歴史上の人物や動物、話題のキャラクターをかたどった高さ数メートルの造形物を各団体がつくり上げる。鱗にする流木を延岡まで取りに行くこともあるという。祭り当日は一基ずつ入場して引き回しと審査が行われ、作り手が手塩にかけた“動く芸術品”が沿道をにぎわせる。