黒木・中山の大藤とみやま、玉名・和水へ
旅のはじまりは西鉄の久留米。バスに乗りついで八女福島を抜け、山あいの黒木へ向かう。「くろぎ」なのか「くろき」なのか、看板すら一定しない静かな町に、めあての黒木の大藤はあった。素盞鳴神社の境内いっぱいに枝垂れた藤は、見あげれば一面の藤の天井。むせ返るほど甘い香りに包まれて、しばし足が止まる。ちょうど酒蔵が蔵びらきをしていたのでしぼりたての原酒を一本、笹の香りのちまき「鬼の手こぼし」と蟹めしで腹ごしらえをした。
羽犬塚へ戻り、こんどは中山の大藤へ。キタ━━!! と思わず声が出る、こちらも見事な藤のトンネル。水面に紅白提灯をうつす石橋の上を、藤の花房がおおっていた。矢部川を渡り、雨もようの空の下、穂をつけた麦畑を横目にみやまの清水山へ。雨に濡れた新緑と苔がしっとりと鮮やかで、本坊庭園もぼたん園も、春のおわりの湿った空気によく似合っていた。
列車で南へ下って玉名へ。玉名ラーメンの名店は駅から遠く夜からの営業ばかりなので、駅前で少しお高い味噌ラーメンをすする。これはこれでうまい。日暮れの和水町へ渡って江田船山古墳をのぞき、今夜の宿HOTEL AZへ。夜ごはんは道の駅の惣菜、野菜たっぷりの厚めのチヂミが思いのほかの当たりだった。
黒木の大藤
八女・黒木の素盞鳴神社の境内に枝垂れる、国指定天然記念物の大藤。樹齢はおよそ六百年と伝えられ、幹からのびた枝が棚いっぱいに広がって、花房が紫の簾のように垂れさがる。見ごろは四月下旬のわずかな期間で、近年は温暖化のせいか咲く時期が早まっているという。棚の下に立つと、甘く濃い花の香りが頭上から降りそそいでくる。
和水トンカラリンと山鹿・平山温泉を巡り帰宅
二日目は和水町のトンカラリンから。里山にひっそり眠る謎の石積み遺構で、看板のフォントまでどこかホラーっぽい。シダに縁どられた暗渠のような細い通路をくぐり、苔むした石段を下りて、「生きて帰れるか」などとひとしきり盛り上がりながら、用途もわからぬ古の構造物を歩いた。
山鹿へ出ると、ちょうど町は温泉祭のまっさいちゅう。唐破風の湯屋がうつくしいさくら湯のまわりは、桜で飾られた山車がお出迎え。さらに平山温泉の元湯へ足をのばせば、ぬるすべのお湯がポカポカとあたたかく、心までほどける。昼は和食のお店で蕎麦と天ぷら、里芋らしき外カリ中とろの謎のひと品がとびきりだった。
雨のあいまに平山橋の輪石や岡命神社をのぞいて、県境をまたぐ堀川バスで福岡へ。客はひとりきり。道の駅たちばなで筍を仕入れ、羽犬塚では羽の生えた犬の像に首をかしげる。藤とみどり、雨と湯けむりの二日間は、土産の筍を抱えて静かに幕を閉じた。
トンカラリン
和水町の里山にのびる、全長およそ四四五メートルの石積み・暗渠状の遺構。トンネルや掘割、石蓋をかけた溝などがつらなるが、いつ・なんのために造られたのかははっきりしない。排水路とする説、祭祀の場とする説などが入りみだれ、作家・松本清張が邪馬台国との関わりで注目したことから全国に知られた。近くには銀象嵌の銘をもつ大刀が出土した江田船山古墳もあり、このあたりは古代のロマンが色濃くただよう一帯だ。