熊本から南阿蘇へ 桜の名所を自転車で巡る
早朝の福岡を発って熊本へ。まちなかでも水がきれいな江津湖で、咲きはじめた桜と水辺をながめる。福岡よりだいぶ咲いとるね——南へ来ただけで、春がひとあし進んでいた。立野駅で相棒の折りたたみ自転車「クロちゃん」をぱちんと広げ、立野名物のニコニコ饅頭を頬張って、いざカルデラへ。もう燕も来ている。
震災から立ち直った新阿蘇大橋や、深い谷に赤いアーチをかける第一白川橋梁を渡ると、気づけばすっかり外輪山の内側。南阿蘇の桜巡りがはじまる。満開の観音桜、阿蘇山を背にした野外劇場アスペクタの桜、そして締めは一心行の大桜。満開すぎてむしろ花は少なめ、でもその散り方に侘び寂びがあって、かえっていい。
名水の湧く里で透きとおった水源をのぞき、高森で地酒と醤油を仕入れる。毛並みのフッサフサなラクダのような山並みを眺めて、宿へ。晩ごはんはスーパーのかわりにヒライのお弁当で、炭水化物かける炭水化物。熊本らしいクリーミーな豚骨が、おにぎりに染みわたる。
一心行の大桜
南阿蘇・白川のほとりに立つ、樹齢四百年ともいわれる一本桜。戦国の世に散った武将・中村伯耆守とその一族の菩提を弔うために植えられたと伝わるヤマザクラで、高さ約十四メートル、幹まわりは七メートルを超える。満開の頃には淡い花が巨木いっぱいに広がり、夜はライトアップも。台風で傷んだ時期もあったが、人の手で支えられながら、いまも春ごとに花をつける。
竹田・豊後大野へ 白水の滝と岡城・原尻の滝
朝ごはんで腹ごしらえをして、まずは絵本から抜けだしてきたような上色見の木造校舎へ。その奥、杉木立に石灯籠がずらりと並ぶ上色見熊野座神社は、幻想的な佇まいで知られる映えスポット。苔むした鳥居をくぐり、灯籠の列をのぼった先には、ぽっかり穴のあいた巨岩・穿戸岩がそびえる。昼でもひんやりと、神さびた静けさ。
外輪山をゆるゆる越えて大分へ。坂はゆるく舗装もよくて、思ったより遥かに楽ちん。阿蘇の台地が削られた谷底、白水の滝は川が落ちてくるのではなく、岩の隙間からドバドバ水が湧きだす不思議な名瀑だった。水を平等に分ける円筒分水や、美しい石橋——昔の人の知恵に、いちいち目を見張る。昼は命水苑でえのは御膳、虹鱒の洗いに塩焼き、肉厚で食べごたえあって美味いな。
荒城の月のモデル・岡城跡から、断崖ごしに春の渓谷を見晴らす。そしていよいよ東洋のナイアガラ・原尻の滝へ。田んぼのまんなかに忽然とあらわれる大瀑布に、押すなよ押すなよと盛りあがる。道の駅のチューリップも早咲きで華やか。新酒を仕込んで緒方駅でゴォォル! 土日で阿蘇に来られるとは、九州に越してきた甲斐があるってもんだ。
上色見熊野座神社
高森町の杉木立のなか、およそ百基の石灯籠が参道の両脇にずらりと連なる古社。苔むした石段をのぼった先には、風穴のあいた巨岩「穿戸岩(うげといわ)」がそびえ、どんな目標も必ず射抜く「必勝・合格」の神として信仰される。木もれ日の差す幻想的な参道は、「蛍火の杜へ」や「夏目友人帳」を思わせる聖地としても人気を集める。昼でもひんやりと空気が澄んで、思わず背筋がのびる。
原尻の滝
豊後大野市緒方町、田園のまんなかに忽然とあらわれる幅約百二十メートル・高さ約二十メートルの大滝。その見ごたえから「東洋のナイアガラ」と呼ばれる。およそ九万年前の阿蘇の大噴火が生んだ柱状節理の岩盤を、緒方川が幕のように流れ落ちる。滝の上には橋がかかり、すぐそばまで近づける珍しい滝でもある。周辺は道の駅やチューリップ畑があり、春は花と水音でにぎやかだ。