バスで別府へ 明礬・鉄輪の湯けむりと、昭和のタワー
旅のはじまりは天神の高速バスターミナル。発車案内に並ぶ九州の行き先をながめて、朝いちの便で大分をめざす。玖珠のあたりは思いのほか雪が残り、山の上の「リッツ」みたいな立命館アジア太平洋大学を見送れば、別府はもう目の前。まずは十文字原の展望台で、少し霞んだ別府湾と街をながめた。
明礬(みょうばん)温泉へ。藁葺きの湯の花小屋がいくつも白い湯けむりを上げ、ここで入浴剤の「湯の花」がいまも育てられている。白濁の湯にたっぷり浸かると、上がったあとにお肌がピリピリ。鉄輪(かんなわ)へまわり、別府の象徴・湯けむり展望台へ。無数に立ちのぼる湯けむりは、子どもの頃の記憶にも残る別府の景色だ。
夕方は別府タワー。高さ55mと可愛いけれど、昭和30年代生まれの登録有形文化財。中間デッキはスケスケで、見下ろす街にはもうネオンが戻らない(2022年に契約終了したそう)。締めは別府ブルワリーのカボスセゾンに、じんでのカボスうどん——豊後は柚子胡椒じゃなくカボス胡椒。大分の酸っぱさを、ぞんぶんに浴びた一日だった。
明礬の湯の花
明礬温泉の斜面に点在する藁葺きの小屋は、入浴剤「湯の花」をつくる「湯の花小屋」。地中から噴き上がる温泉ガスを、小屋の中に敷いた青粘土に当て、ひと月以上かけて結晶を育てる——江戸時代から続くこの製法は、国の重要無形民俗文化財に指定されている。別府一帯に立ちのぼる湯けむりの風景もまた、「別府の湯けむり・温泉地景観」として国の重要文化的景観に選ばれた、世界有数の温泉郷の顔だ。
峠を越えて由布院、八鹿酒造の蔵開きへ
別府の朝は海門寺温泉で朝風呂から。「ゆふりん」バスにゆられて峠を越え、狭霧台から雨にけむる由布院盆地へ下っていく。駅はスーツケースの旅行者でとんでもない混雑——ほとんどが韓国からのお客さんだった。震度4の地震で叩き起こされつつ、ローカル線で蔵のある里へ向かう。
今日の本命は、九重町の八鹿(やつしか)酒造の蔵開き。恵良駅から歩いて蔵へ。「極寒蔵開き」と言いつつ日が差して暖かく、とりあえず生の原酒で乾杯。八鹿天むす、おでん、かす汁で温まりながら、大吟醸原酒に、発売前のスパークリングロゼ(黒米仕込みで酸味がいい)まで。飲みまくりというより食いまくり、気づけば四合瓶を四本も抱えていた。
久大線のダイヤはゴミ、とにかくバスで豊後森へ。童話作家の里・玖珠は、桃太郎銀座に鯉のぼり焼き。道の駅で一村一品をあれこれ買い込み、日田を経由して帰路につく。しめは日田彦山線BRT「ひこぼしライン」——添田駅には星をまとったバスが次々と集まり、緑に紫の見送りを受けて福岡へ帰った。
蔵開きと大分の酒
「蔵開き」は、仕込みを終えた酒蔵が年に一度ほど門を開き、搾りたての新酒や蔵限定の原酒をふるまう冬の祭り。九重町の八鹿酒造は、大分を代表する酒蔵のひとつで、この日は生原酒から大吟醸、スパークリング、黒米仕込みのロゼまでが次々とグラスに注がれた。肴は八鹿天むすやおでん、かす汁——真冬の蔵に、湯気と酒の香りが満ちる。別府で浴びたカボス同様、大分は食と酒のあちこちに、この土地ならではの一癖がきいている。