新幹線で信州へ、中山道の宿場をゆく
新幹線でサクッと佐久平へ。愛車を広げて走り出すと、日差しこそ強いけれど風はさらりと涼しい。千曲川の渡しで栄えた塩名田宿には、三階建ての堂々とした旅籠が今も残っていて、いきなり街道の風情にやられる。道の駅で頬張った朝ごはんのおにぎりは、この辺りの五郎兵衛米にねぎみそ——これがめちゃうまで、旅のエンジンがかかる。
八幡宿では八幡神社の随神門の彫刻に見入り、望月宿では古い旅館の構えを眺める。お昼は名物の駒月みそかつ丼。甘みのある地味噌「雁喰味噌」がカツに染みて、思っていたよりずっと美味い。正式な宿場ではないのに宿場さながらの風情を残す茂田井では、白壁の酒蔵・武重本家酒造の前でしばし足を止めた。
芦田宿から松並木の残る笠取峠を汗だくで越え、坂の上まで続く長久保宿へ下る。長和の道の駅で一息ついて、今夜の宿は布引観音温泉。ぬるめの湯に交互浴でいつまでも浸かり、川魚の唐揚げや地のビールを肴に、一日こいだ身体がゆっくりほどけていった。
中山道と佐久の宿場
中山道は江戸と京を内陸でむすんだ五街道のひとつ。佐久平にはその宿場が点々と連なり、塩名田・八幡・望月・芦田・長久保がこの旅の道筋にあたる。茂田井は正式な宿場(宿駅)ではなく望月宿と芦田宿の「間の宿」だが、白壁と格子の町並みがみごとに残り、本家の宿場に劣らぬ風情を見せる。笠取峠の松並木は、旅人に木陰をつくるため藩が植えさせたものと伝わり、今も街道時代の面影をとどめている。
千曲川の地形、布引観音から小諸へ
クーラーなしでぐっすり眠った翌朝。朝風呂をもう一度浴びてから出発する。千曲川ぞいは切り立った岩山がそびえるすごい地形で、かつてはこの崖下を小さな電車が走っていたという。帰り際に一か所だけ、と立ち寄ったのが布引観音——「牛に引かれて善光寺参り」の言い伝えが生まれた、断崖に張りつくお堂だ。朝から汗だくで石段をのぼった先に、涼しい眺めが待っていた。
もう一か所、氷風穴群へ。夏でもひんやりとした天然の風穴で、下げられた温度計は二桁の低さ。汗が冷えて風邪をひきそうなほど涼しく、森のなかに段々と石室が積まれ、まわりにはナナフシがわんさかいた。段丘を登る坂はどこもきついが、廃線跡をたどる道だけは勾配がゆるく、ヘロヘロの身体にはありがたい。小諸に着いたら、日曜昼の新幹線で東京へ。暑さにやられながらも、涼と風情を使い切った二日間だった。
牛に引かれて善光寺参り
布引観音(布引山釈尊寺)は、千曲川を見下ろす断崖に懸造りのお堂を構える古刹。信仰心のない老婆が、干していた布を角に引っかけて逃げる牛を追ううちに善光寺までたどり着き、仏の導きを知って信心深くなった——「牛に引かれて善光寺参り」の伝説は、この布引観音を発祥の地とする。思いがけない縁に導かれて良い方へ向かうことのたとえとして、今も語り継がれている。