上信電鉄で下仁田から上野村へ 慰霊の園と自炊の宿
小雨のなか、上信電鉄のちいさな電車に乗って下仁田へ。ネギとこんにゃくの田舎くさいイメージを勝手に抱いていたら、着いてみれば意外や意外、堂々とした常盤館や肉店の構える町並みが続く、芯のある町だった。駅のすぐそばの青岩公園では、名のとおり青みをおびた岩が川床にひろがっている。
タクシーと路線バスを乗りついで、谷の奥の上野村へ。福寿庵でひと休みして食べた天ぷら蕎麦は、椎茸の天ぷらがアツアツで分厚くてプリプリ——山のめぐみそのものの味だった。雨は小降りになり、新緑のまぶしい道を歩いて日航機墜落事故の慰霊の園へ。しずかに手をあわせてから、今夜の宿へ向かう。
泊まるのは自然体験学習の家「木森れ陽」。研修施設のような広々とした畳部屋に荷をほどき、温泉のあとは自炊場で夕飯づくり。上野村産の猪豚とタラノメ・椎茸の炒めもの、下仁田の刺身こんにゃくに十石みそ汁——気づけば全部みそ味。それでも猪豚の甘み、タラノメのほろ苦さ、椎茸から出る出汁が、山の一日をやさしく締めくくった。
上野村と御巣鷹
多野郡上野村は、群馬県の南西端・神流川の最上流にある山里。1985年8月の日本航空123便墜落事故の現場・御巣鷹の尾根はこの村にあり、ふもとには犠牲者をまつる「慰霊の園」が設けられている。人口は少なく信号も数えるほど、名産は十石みそや上野村産の猪豚・椎茸・こんにゃく。深い谷と新緑、山菜のめぐみに囲まれた、祈りと暮らしの村だ。
上野村から神流町・藤岡へ 万場宿と藤の花
朝ごはんをすませて宿を出ると、ゆうべの雨が嘘のような晴れ。浜平温泉しおじの湯のあたりから、雨に洗われた新緑がいっそうまぶしい。山奥の白井宿へ——こんな谷あいの集落にも、かつては市が立ってにぎわった宿場があったという。
山をくだると空はますます青い。こたつに入ってすいとんをいただく。おばあちゃんがひとりで切り盛りしていて、わらびや野生のわさびの漬物まで次々に出してくれた。すきとおった神流川をのんびりくだって神流町へ。道の駅をのぞき、岩肌に張りつくお社で長い鼻の大天狗ににらまれ、坂本時計店や酒屋の並ぶ万場宿の古い町並みをあるく。藤はもう咲きはじめ、クマバチがぶんぶん飛んでいた。
バスに乗って藤岡へ。お目当ての藤は、青空の下にちょうど咲きそろい、あたりに甘い香りが漂っていた。桜の瓦がかわいい富士浅間神社に寄り、新町から電車で東京へ。締めは高崎の住宅街で評判の中華屋さん。もつ煮やかち鳥もちをつまみ、昔ながらの中華そばをすすって、夏のような雲をながめながら、春の谷の二日間を閉じた。
神流川の宿場と藤
上野村から神流町へ、神流川ぞいには白井宿・万場宿といった古い宿場が点在する。山深い谷でもかつては市が立ち、人と物が行き交った名残だ。春には下流の藤岡で藤が咲く。藤岡は古墳と瓦の里でもあり、マンホールには埴輪と馬、富士浅間神社の社殿には桜をあしらった瓦がのる。桜が早い年は藤も早い——咲いた棚に、クマバチが羽音を立てて通う。