こまちで大曲へ、六郷の名水めぐりと山あいの湯宿
東京駅、新幹線ホーム。「どれに乗ろうかな」とレッドのこまちに乗りこみ、ビューーンと北へ。雪の少ない大曲に降りると、花火通り商店街は夏の喧騒がうそのように静かだった。路線バスを乗り継いで、名水の町・六郷へ向かう。
まずは腹ごしらえ。ろくごうドライブインのラーメンに揚げ玉をボンバーすると、名水のまちだからか、スープがめっぽう旨い。そこからは清水めぐり。紙漉座清水は雪捨て場どころか、湧き水で水温が一定だからほんのり湯気をたてていた。サイダーで名高いニテコ清水、生活感のない冬の藤清水、いい雰囲気のキャペコ清水……降りしきる雪のなか、町のあちこちで水はこんこんと湧きつづける。
良い水のあるところに良い酒あり。酒蔵をのぞき、おちゃけを買い込む(店主のおじいちゃんは「もうすぐ竹うち(カマクラ)だ」と教えてくれた)。横手にちょっと寄り道して、奥羽本線で神宮寺へ戻る。今夜の宿は山あいの岩倉温泉。深くて温まるいい湯と、山菜尽くしの膳——みずのこぶ、いぶりがっこ、ウド、フキノトウ、ワラビ……焼き魚に天ぷら、締めは秋田のセリときりたんぽ。交通費がタダなぶん、宿はちょっと奮発した。
六郷湧水群と名水の郷
美郷町六郷は、奥羽山脈にしみこんだ雪どけ水が扇状地の縁からわき出す「名水の郷」。かつては百以上、いまも六十を超える清水(しみず)が町なかに点在し、環境省の「平成の名水百選」にも選ばれている。湧き水は年じゅう水温が一定で、真冬でも凍らず、むしろほんのり湯気をたてる。ニテコ清水はサイダー(ニテコサイダー)の仕込み水として知られ、「良い水のあるところに良い酒あり」のとおり、町には酒蔵も多い。
六郷のカマクラ
六郷に春を呼ぶ小正月の火祭り。「カマクラ」というと雪洞のイメージだが、六郷のそれは七百年続くとされる勇壮な行事で、青竹をぶつけ合う「竹うち」が名物。天筆(願いごとを書いた色紙)を燃やし、鳥追い小屋を焼いて、その年の豊凶を占う。二月中旬、酒屋の店主が「もうすぐ竹うちだ」と教えてくれた。
唐松神社の注連縄、濃い湯の強首、そして居酒屋新幹線
宿で山菜中心の朝ごはん。温泉たまごが旨い。青空が見えたと思ったら、いつのまにかドカ雪。バス停で財布を落として、運転手さんが気づいてくれなければ死んでいた(´・ω・`)。神宮寺をぶらつき、刈穂酒造の渋い酒蔵や「少年野球発祥の地」のマンホールをながめる。大曲エリア縛りだから観光地らしい観光地はないけれど、それがいい。
羽後境から協和へ。雪化粧の唐松神社は、鳥居の先の杉並木が社殿へ下っていく珍しい「下り宮」。拝殿にかかる太い注連縄に見とれ(戸隠神社みたいね)、手水の龍は寒さで氷づけ。雪に埋もれた唐松城はお休み中。秋田空港が近く、想像の何倍も飛行機が飛んでくる。ラーメンショップAji-Qは地元で一番旨いと評判——マイルドな豚骨に甘口カレー、思ったよりずっと量が多くてペロリンチョ。終点・福部羅には立派な曲がり屋。雄物川のほとりを歩くと、天気が持ち直して奥羽山脈が顔を出した。
強首温泉・樅峰苑へ。ヨウ素臭で塩っぱく、鉄っぽい析出もある、世界的にも珍しいという濃い湯だった。峰吉川まで歩いて無人駅で一服、六郷で買ったサイダーをごくり。本数の多いこまちが斜めに走り抜けるのを見送って、いよいよ帰路へ。大曲から乗るこまちは「居酒屋新幹線」——駅弁とビール、がっこ、ハム、あんず寒天で、車内はもうベロベロ。寒くてあたたかい二日間、ごちそうさま。
唐松神社
大仙市協和にある古社で、安産・子授けの神として知られる。参道が社殿に向かって下っていく「下り宮」の珍しい造りで、物部氏ゆかりとも伝わる。見ものは拝殿にかかる太い注連縄——ずしりと重たげな縄とその造形は、信州の戸隠神社を思わせる。近くには、水理学・耐震工学の先駆者で郷土の偉人・物部長穂の記念館が建つ。
強首温泉
雄物川ぞいの一軒宿・樅峰苑(しょうほうえん)がまもる、知る人ぞ知る名湯。国の登録有形文化財という大正の豪壮な館に、ヨウ素を多く含む強食塩泉がわく。舐めると塩辛く、鉄分で赤茶けた析出が湯口にこびりつく——世界的にも濃いとされる、体の芯まで温まるお湯だ。