沼田・迦葉山弥勒寺の天狗面参拝と老神温泉泊
東京を早朝に発ち、上越線で沼田へ。ガーラ湯沢が雪不足で開かないと聞いて、行き先を迦葉山に切り替える。「判断が遅い!」——相棒の心の声を背に、バスを乗り継いで山のふもとへ。ふもとのお面屋さんは冬季休業であいにく閉まっていたが、かまわず参道に分けいる。ろうそく型の標柱、朱塗りの楼門を守る烏天狗らしき像、雪のちらつく倒木の道。わりとあっさり、山上の弥勒寺にたどり着いた。
お堂の壁は、見あげるほどの天狗面でびっしり。ここでは一番小さなお面をお借りして、また来たときにひと回り大きなものを納める約束を結ぶのがならわしだ。紙製のお面を潰さぬよう持ち帰り、観光客もいない静かな山を下る。ふもとで食べたそばは、味噌を出汁に溶く変わり種。舞茸やお芋の天ぷらがサクサクで、冷えた体にしみた。
なめこセンターで無料のなめこ汁をすすり、お土産のなめこまでいただく。沼田の市街に残るレトロな洋館をのぞいてから、バスも乗り入れない老神温泉へ。射的や美人座の看板が往時の名残をとどめる、どこか寂しげな湯の町だ。宿の楽善荘でおこたに足を入れ、夕飯はぎょうざの満洲へ。「いつもより3割うまい!」——山と湯で冷えた体に、餃子としっかり味がしみわたった。
迦葉山と天狗面
沼田の奥にひらかれた迦葉山龍華院弥勒護国禅寺は、京都の鞍馬山・東京の高尾山とならぶ日本三大天狗のひとつに数えられる。中興の名僧・中峰尊者が、じつは天狗の化身だったという伝説にちなみ、巨大な天狗面がまつられている。参拝者はお面を一枚借りて持ち帰り、願いがかなうと、もとのお面に新たなお面を一枚添えて二枚にして返す——この「借りてお礼に倍にして返す」信仰から、寺には大小さまざまな天狗面が奉納され続けている。
川場村で吉祥寺拝観と土田酒造の新酒、川場温泉入浴
朝風呂であたたまって宿を出ると、予報に反してめっちゃ天気がいい。日曜はバスが来ないので、坂道を25分くだって町へ。川場村へ移動して、まずは谷川岳の新酒をさっそくGET。軒先には杉玉——揚げすぎて焦げたアンパンマンのような物体が、新酒の合図に下がっていた。
ちょっと寄るつもりが、拝観料800円の名刹・吉祥寺へ。境内は広く、庭園と建物が点在し、楼門の上まで登れる珍しいお寺だ。あちこちで清らかな水が流れ、縁側を裸足で歩くと足が霜焼けになりそうなほど冷たい。宝物館も無料。こんな山奥になぜ、と思えば、川場は大友氏発祥の地で、恩のある僧が建てたのだという。晴れ間の奥には、どっしりと武尊山(ほたかやま)。
道の駅でアヒルに見送られ、昼はまたそば。高野豆腐の天ぷらが、噛むと出汁をじゅわっと返してうまい。歴史民俗資料館で養蚕の歴史をたどり、土田酒造で新酒を買い足す——荷物が重い。茅葺き屋根の残る集落を横目に、川場温泉いこいの湯でちゃぷん。沼田駅から夜の東京へ。帰りの車中で飲む新酒は、やっぱり格別の味だった。
川場村と吉祥寺
武尊山のふもと、群馬・川場村にある臨済宗の古刹。1339年の創建と伝わり、「東国の花の寺」として四季の花で知られる。この地が九州の戦国大名・大友氏の発祥地にあたることから、大友氏ゆかりの僧によって建立されたと伝えられ、山深い村には不似合いなほど格式の高い伽藍をもつ。境内は湧き水が豊かで、楼門の上層にのぼれるのも珍しい。川場村は尾瀬や武尊山の登山口であり、良質な米と水から生まれる地酒の里でもある。