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紀勢本線と自転車で、本州最南端へ
NANKI · KISHU COAST · 2022 晩秋

紀勢本線と自転車で、本州最南端へ

漁村とリアス、奇岩の川、そしてトルコの岬へ。

2022.11.2 ▶ 11.6

Days5日間
Dist約920km
Area三重・和歌山
Top最高 200m

仕事終わりの水曜の夜、深川めしの駅弁を抱えて新幹線に飛び乗る。向かうは南紀。折りたたみ自転車「クロちゃん」を輪行して、紀勢本線でコトコト南下しながら、降りたい駅で降りて走り出す——そんな気ままな旅のはじまり。

松阪から尾鷲、熊野へ。山がそのまま海に落ちこむリアス式の海岸線に、九鬼・早田・三木里・古江・二木島と小さな漁村が隠れている。古座川をさかのぼれば、虫喰岩や一枚岩といった奇岩が次々あらわれ、川は底まで透けるほど青い。やがて本州最南端の潮岬、トルコとの縁が息づく紀伊大島、そして名湯と白い砂の白浜へ。海と岩と灯台の、晩秋の五日間の記録。

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DAY 1 · 11.02

東京から夜に南紀へ発ち松阪で前泊

水曜の夜、東京駅。仕事を終えてすべり込み、ホームの売店で迷わず深川めしの駅弁を手に取る。結局これがいちばんうまい——N700Sの座席で蓋を開ければ、もう旅がはじまっている。

日付が変わるころ松阪にたどり着いて、今夜のねぐらは快活CLUB。締めのクリームソーダをちびちびやりながら、明日の始発にそなえて早々に目を閉じた。

移動 約319.0km

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DAY 2 · 11.03

紀勢本線と自転車で東紀州の漁村巡り

夜明け前の松阪駅はまだ凍えるほど。サドルには露がおり、見上げればオリオンがくっきり。紀勢本線に揺られて南へ下ると、梅ヶ谷あたりまで立ちこめていた霧がふっと晴れ、東紀州はまぶしいほどのピーカン。天気が良すぎるから、と予定を変えて九鬼で自転車を組み立てた。

ここから先は、山がそのまま海に落ちこむリアス式の海岸線。九鬼、早田、三木浦、三木里……どの入り江にも、斜面に家々が折り重なる小さな漁村が隠れている。古江ではほとんどの家が年中の正月飾りを掲げ、曽根浦の飛鳥神社では御神木と石垣に圧倒された。ずっと来たかった二木島に降り立ち、青すぎる海に見とれる。食事処どころか商店すらない道を、しるこサンドをかじってしのいだ。

新宮でサイクルトレインに乗り換えて、今夜の宿は古座川のやまさき屋旅館。かぶと煮にマグロの山かけ、そしてうつぼ——津から来た広島のおっちゃんと差し向かいで、南紀の海の幸を肴に夜はふけていった。

移動 約154.1km / 獲得標高 316m

年中の正月飾り

伊勢志摩から東紀州にかけては、玄関の注連縄(しめなわ)を正月に外さず一年じゅう飾りつづける家が多い。縄には「蘇民将来子孫家門(そみんしょうらいしそんかもん)」と記した木札や符がさげられる。むかし旅の神・須佐之男命を貧しいながら手厚くもてなした蘇民将来に、神が「子孫は疫病をまぬがれる」と約束した——その伝説にちなむ厄除けのまじないだ。古江では、ほとんどの家の軒先にこの飾りが掲げられていた。

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DAY 3 · 11.04

古座川を遡って奇岩を巡り串本へ

朝ごはんは干した鮎に卵焼き、自家製の野菜が特にうまい。おひつは小さめだけどおかわりできる。腹ごしらえをして、今日は古座川をさかのぼる。河口の町はうつぼの干物の産地。少し曇り空のなか、川沿いに自転車を走らせていく。

虫喰岩キタ━━!! 無数の穴ぼこに覆われた奇岩に、思わず声が出る。南紀熊野ジオパークの名所だ。大きな岩山をまるごと御神体にしたような神社を抜け、支流へ入ると川はいよいよ透明で、底で魚が跳ねるのが見える。堰のそばでは投網漁のまっさいちゅう。滝の拝、吊り橋、そして一枚岩——エアーズロックよりでかいんちゃう、と見上げるほどの大岩に圧倒された。

潜水橋を渡って串本へ下るころには、夕陽には間に合わず。それでも橋杭岩の奇観を横目に町へ入る。串本はやっぱり栄えている。夜は宿の部屋で、鹿肉やくじら、まぐろの珍味をならべてのひとり宴。熊野の水で醸す地酒・太平洋が、一日の疲れにしみた。

移動 約54.6km / 獲得標高 258m

古座川の奇岩と一枚岩

古座川の流域は、火山がつくった巨大な岩体がつらなる南紀熊野ジオパークの核心部。なかでも「一枚岩」は、高さ約100m・幅約500mにもおよぶ一枚の大岩壁で、国の天然記念物に指定されている。穴ぼこだらけの「虫喰岩」は、岩の表面が風化でぽつぽつと蜂の巣状に削られたタフォニと呼ばれる地形。川の水は驚くほど澄み、晩秋には鮎がさかんに跳ねていた。

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DAY 4 · 11.05

橋杭岩の朝焼けと紀伊大島・潮岬

眠れないまま、朝焼けを見に橋杭岩へ。サンライズ橋杭岩! ライトアップのときより断然いい。海から顔を出す光に、点々と並ぶ岩が黒いシルエットで浮かび上がる。来てよかった、と素直に思える朝だった。

今日は紀伊大島と潮岬。ループ橋とくしもと大橋をわたって島へ上陸する。大島の先っちょ・樫野埼灯台のそばには、トルコ建国の父アタテュルクの騎馬像と、エルトゥールル號の慰霊碑。明治の遭難で村人が乗組員を救った縁が、いまもこの岬にトルコの風を吹かせている。絨毯屋でのびーるトルコアイスをなめ、岬のカフェでビーフケバブライスとトルココーヒー占い——結果はなかなか良好。すり寄ってきた黒猫に、しばらく動けなくなった。

金山展望所からの眺めはマジパナイ。大島に来たらここは外せない。橋をわたって戻り、いよいよ本州最南端の潮岬へ。観光タワーに登り、灯台にも登り、芝生と海のひろがりを目に焼きつける。オゴクダ浜で貝殻をちょっと拾ってから、暗い夜道をナイトライドして白浜の宿へ。

移動 約214.9km / 獲得標高 177m

エルトゥールル號と、串本のトルコ

1890年、オスマン帝国の軍艦エルトゥールル號が大島沖で台風にあい、岩礁に乗り上げて沈没した。嵐のなか、大島樫野の村人たちは総出で生存者を救い、乏しい食料を分け与えて手厚く介抱したという。この献身は海を越えて語り継がれ、のちに日本とトルコの友好の原点とされた。岬には慰霊碑とトルコ記念館、そして建国の父アタテュルクの騎馬像が立ち、絨毯屋やカフェでトルコアイス・トルコ料理まで味わえる。映画「海難1890」でも知られる物語だ。

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DAY 5 · 11.06

白浜を巡り御坊まで南下して帰宅

最終日は白浜の名所めぐり。断崖の三段壁、海へ広がる岩畳の千畳敷、そして海がすぐそこの露天風呂・崎の湯。頭上でほどけていく飛行機雲を眺めながらの湯は格別だ。スプーン一杯で驚きの白さ——白良浜のまぶしい砂を踏み、真ん中に穴のあいた円月島を見送る。

田辺からはサイクルトレインで印南へ。ずっと見たかった、あのふざけたカエルの「かえる橋」にようやく対面。かつお節発祥之地では、全国の名だたる産地の石をずらりと従えた碑に本気を感じた。御坊の手前でまさかのパンク。それでも日本一ミニな紀州鉄道に間に合って、ゴールにすべり込む。

さらば和歌山、また来るよ——特急くろしおと新幹線を乗り継いで、日曜の夜が何回ぶんもまとめて押し寄せる帰り道。海と岩と灯台の五日間は、こうして静かに暮れていった。

移動 約240.7km / 獲得標高 282m

白浜と、牟婁(むろ)の湯

南紀白浜は、万葉のむかしから「牟婁の湯」と詠まれた日本でも指折りの古湯。なかでも「崎の湯」は、太平洋の波打ちぎわにそのまま湯船を設えた野趣あふれる露天で、潮の香りと硫黄の湯の花をまといながら、水平線をひとり占めできる。白良浜の目のさめるような白砂、真ん中にまるい穴のあいた円月島とあわせ、海の造形をめいっぱい楽しめる町だ。