夜の信州入り、山賊焼きで乾杯
三連休のはじまり。金曜の夜に信州へすべりこみ、まずは上田のまちで腹ごしらえ。名物の山賊焼きをたのんでみたものの、衣はちょっとぼってり、脂は重め——「美味い店はこのへんが上手なんだよなあ」と評論しつつ、旅のはじまりの味としてありがたくいただく。
宿に荷をほどけば、窓の外はもう信州の夜。明日は朝いちで棚田へ向かうと決めて、早めに眠りについた。
棚田と宿場、坂をのぼって志賀高原へ
朝の上田は雲が激しく動く空模様。坂をくだって稲倉の棚田へ着くと、ちょうど絶賛稲刈り中で、刈った稲を干すはぜかけが秋の光にずらりと並んでいた。これだけの棚田を維持するのは大変だろうなと思いながら、邪魔にならないように斜面をおりていく。まちへ戻れば、知らずにバスで何度も渡っていた上田ローマン橋、レトロな上田映劇——昭和の芝居小屋がそのまま残るような一角にも出会った。
しなの鉄道にゆられて坂城町へ。戦国武将・村上義清ゆかりの地で、北国街道の坂木宿をあるく。おしぼりうどんの旗に心を残しつつ、長野駅からバスにのりかえて、ぐんぐん山をのぼる。たどりついた志賀高原は、もう「寒岩!!」というくらいの空気。硫黄の湯の花がすごい宿の湯にまったりつかって、夕食の膳をひらけば——すき焼きにハンバーグ、アジフライ、グラタン、信州サーモンの握り。メイン級が五つも六つも渋滞して、お櫃は空にできなかった。
稲倉の棚田とはぜかけ
上田市の山あいに広がる稲倉の棚田は、日本の棚田百選にも選ばれた信州屈指の棚田景観。大小の田が斜面を段々にのぼり、刈り取った稲を木組みにかけて天日で干す「はぜかけ(はさがけ)」が、秋の原風景をつくる。機械乾燥とちがって手間はかかるが、ゆっくり乾かした米は味がのるという。畦(あぜ)の草刈りも含め、こうした景色は地元の人の地道な働きで守られている。
渋峠の雲の中、草津の湯けむり
朝の志賀高原は、うろこ雲のあいまに晴れ間。バスの時間まで、丸池から琵琶池へと水辺をさんぽする。紅葉はもうちょい、それでも高原はすこしずつ色づきはじめていた。やがて渋峠行きのバスにゆられ、横手山へ。斜めのベルトコンベア「スカイレーター」でぐらぐら登り、さらにリフトを乗りつぐ——が、山頂は雲の中。クソ寒い風にずっと吹かれ、ワイヤーから水滴まで落ちてくる、まさに拷問のような登りだった。それでもリフトの下には雲海が広がって、凍えた甲斐はあった。冷え切った体を、ドライブインの温かい一杯であたためなおす。
バスをのりついで、草津温泉へ。地蔵の湯にちゃぷんとつかれば、ぬるめの適温で生き返る心地。もうもうと湯けむりを上げる湯畑を眺め、西の河原のほうへ。石畳のまちには、むかしこの地で尽くしたコンウォール・リー女史をしのぶ聖バルナバ教会も建っていた。三連休の中日でにぎわう湯の町を抜けて、バスでふたたび上田へ。〆のあんかけ焼きそば…を頼んだら、出てきたのは普通の焼きそばという罠。それでも、にぼしの効いたスープはちゃんとうまかった。
草津の湯畑と外湯
草津温泉の中心にある湯畑は、毎分数千リットルもの源泉が湧き、湯けむりを上げながら木樋(きとい)を流れていく名物の光景。湯の花もここで採る。強い酸性の湯は、見た目のわりに入るとまろやか。地蔵の湯や千代の湯など、気軽に入れる外湯(共同浴場)が町なかに点在し、湯めぐりが楽しめる。明治以降は、英国人宣教師コンウォール・リー女史がハンセン病患者の救済に生涯を捧げた地としても知られ、聖バルナバ教会や顕彰碑がその足跡を伝える。
海野宿から軽井沢、アプトの道をくだる
最終日。まんなかに水路が流れる海野宿をさんぽする。観光化されすぎず、格子戸と卯建(うだつ)の町並みが落ち着いていていい雰囲気だ。しなの鉄道で軽井沢へ渡れば、たいした標高でもないのに雲場池はもう紅葉がすすんでいた。六本辻のラウンドアバウトをぬけ、ホコ天でにぎわう旧軽井沢をぶらり。あづまやの力餅(くるみ)は、やわらかい餅にくるみの食感と風味がよく、これがこの日のお昼がわりになった。
軽井沢からは、一日一往復だけの旧道ルートのバスで旧碓氷峠をくねくねとくだる。おりたのは熊ノ平——信越本線の廃線跡をあるく「アプトの道」のほとりだ。トンネルだらけの線路跡を進むと、碓氷といえばの碓氷第三橋梁、レンガ造りのめがね橋があらわれた。わざわざ下におりて見上げる。丸山変電所の赤レンガ、峠の湯を経て横川へくだり、鉄道文化むらでゴール。〆は高崎へ出て、一度食べてみたかった朝鮮飯店で一人焼肉。豚軟骨やガツ、カシラをつまみ、最後はコムタンクッパでしめくくった。
アプトの道とめがね橋
アプトの道は、1997年に廃止された信越本線・横川〜軽井沢間の廃線跡を整備した遊歩道。急勾配の碓氷峠を越えるため、かつてはレール中央の歯車とかみ合う「アプト式」で列車を押し上げていた。道中の碓氷第三橋梁(通称めがね橋)は、1892年に築かれた国内最大級のレンガ造アーチ橋で、国の重要文化財。赤レンガの丸山変電所もアプト式電車に電気を送った遺構だ。峠のふもと横川では、駅弁「峠の釜めし」の荻野屋が今も旅人を迎える。