横須賀港から東京九州フェリーで出航
旅のはじまりは、仕事終わりの横須賀港。台風が近づく空の下、真新しい東京九州フェリー「はまゆう」が白い船体で待っていた。トラックの列がなかなか途切れず、乗り込むのはだいぶ遅れたけれど、ようやくタラップを上がって船内へ。真新しい船はどこもかしこもぴかぴかで、思わず見てまわる。
荷をほどいたおへやで、ひと息。遅い時間までやっている船内レストランで、さばみそをつまみに晩ごはん。酒にも飯にも最高の一皿だ。そして深夜0時すぎ、灯りを落とした港をあとに、船はゆっくりと動きだす。甲板から夜の海をながめながら、長い船旅の一夜目が更けていった。
東京九州フェリーと「はまゆう」
横須賀(神奈川)と新門司(北九州)を約21時間でむすぶ、2021年就航の長距離フェリー航路。乗ったのは新造船「はまゆう」で、露天風呂やレストラン、トレーニングルームや広々としたデッキを備える。深夜に横須賀を出て翌夜に九州へ着くダイヤは、仕事を終えてから飛び乗れるのがうれしい。自転車もそのまま積み込めるので、輪行派の旅の相棒にうってつけだ。
終日のフェリー航海で新門司港から九州上陸
目をさますと、船はもう熊野の沖。陸地は何も見えない大海原を、ひたすら西へ走る。朝は高いからパス、昼はレストランでゆっくりと——というのんびりした船の一日だ。潮岬を越えるころ電波が怪しくなり、室戸岬の沖で「ただいま台風15号が発生しました」の報。揺れを覚悟したけれど、思ったほどでもなく、ぶじ台風をやりすごす。
午後、揺れでいったん閉まっていた甲板の露天風呂が解禁。晴れてきた空の下、海を見ながらの湯は格別だ。足摺岬をまわって瀬戸内へ舵を切り、佐田岬や宇部の灯を横目に、ビーフシチューの夕食で米を食う(シチューでも米は食えるのだ)。そして21時、新門司港に着いて九州へ上陸。さっそく九州らしくちゃんぽんをすすり、夜道を走って行橋のホテルへ。長い船旅が、ようやく陸の旅に変わった。
等覚寺・平尾台のカルストを巡り下関へ
朝ごはんをすませて、いよいよクロちゃんと山の上をめざす。思ったほど晴れていないけれど、ぐんぐん坂をのぼって等覚寺へ。棚田のあぜ道には、鮮やかな赤の曼珠沙華(彼岸花)が咲きそろう。特産品の加工場をのぞきつつ、さらに高みへ。
そして平尾台キタ━━!! 白い石灰岩が羊の群れのように点々と顔を出す、九州屈指のカルスト台地だ。電波はないけど、いい景色。鍾乳洞・青龍窟は奥まで続いているらしいが、こわいので入口だけ。くぼ地(ドリーネ)だらけの草原を、大平山の山頂へ、広谷台へと走る。ガスで下界はかすむけれど、風がきもちいい。帰りに等覚寺の棚田まで下りると、稲刈りの季節のあぜ道が、朝より明るく晴れていた。
門司から関門海峡を越えて、本州・下関へ(´;ω;`)ブワッ。ちょうど活イカが入荷の日。出てきたのは、身がすきとおった“スケルトン”状態のイカ——歯ごたえがあって、ほんのり甘い。山口名物の瓦そばもすすって、下関の夜をしめくくった。
平尾台のカルスト
北九州市の南にひろがる、日本三大カルストのひとつ。石灰岩がむき出しになった白い岩が草原のあちこちに点在し、羊の群れのように見えることから「羊群原(ようぐんばら)」とも呼ばれる。地下には青龍窟など数多くの鍾乳洞が発達し、台地のそこかしこにはすり鉢状のくぼ地「ドリーネ」が口をあける。標高はおよそ400〜700m、高原の風が吹きわたる自転車乗りにはたまらない舞台だ。
角島をめぐり新幹線で帰路へ
最終日は角島へ。下関駅から首都圏色のキハ40に揺られ、途中の車窓には燃えるような朝やけ。難読の特牛(こっとい)駅で下車すると、ホームには名残惜しくなるほど駅ねこがいっぱい。空は雲が多いけれど、これから晴れてくるはず——と信じて海へ向かう。
そして角島大橋キタ━━!! 紺碧の海の上を、一直線の橋がのびていく。渡って島に上陸し、牧崎の草原では黒毛のウッシー(牛)に出会い、冬枯れのはじまった岬をまわる。灯台の開門を待って、白亜の角島灯台へ。螺旋階段をのぼれば、瀬戸内の海がぐるりと見わたせた。スカッとまでは晴れないけれど、海の色はじゅうぶんに美しい。
角島をあとに、阿川からふたたびキハ40で長門市へ。美祢で分厚いKING長州バーガーにかぶりつき、難読の厚保(あつ)を抜けて、道の駅みちしおへ。ずっと食べたかった名物の貝汁は、器いっぱいの貝で濃厚。エキスでパワーアップして、新山口から新幹線へ。海を渡ってきた四日間の旅が、静かに終着した。
角島大橋と角島灯台
山口県北西端、下関市豊北町の沖に浮かぶ角島へわたる、全長約1780mの橋。2000年の開通で、通行料のいらない離島架橋としては国内屈指の長さを誇り、エメラルドグリーンの海を一直線に貫く景観からCMやドラマのロケ地として一躍有名になった。島の先には、1876年に英国人技師R・H・ブラントンの設計で初点灯した御影石づくりの角島灯台が立つ。塗装されない無塗装の石造灯台は全国でも数少なく、らせん階段をのぼって上まで登れる「のぼれる灯台」のひとつだ。