東京から只見線で只見・田子倉ダム、会津田島泊
SW初日、東京駅はすごい人出。上越新幹線で浦佐へ、小出で只見線に乗り換える。くすんだ壁の模様は、なつかしの115系をしのばせる色あい。二週間後にいよいよ全線運行再開という只見線は、乗り鉄たちでそこそこにぎわっていた。只見に着けば、とても可愛らしい小学生の女の子に道で挨拶された——私は決して危ない者ではありません。
ここからは「でんちう」号の出番。只見ダムの、鏡のように澄んだ湖面を横目に、九十九折をこぎ登って田子倉ダムへ(;´Д`)ハァハァ。駅前の売店のママに「この自転車じゃ無理だと思うけど」と煽られたが、やればできる子。ダムの上から見下ろす田子倉湖の深いエメラルドに、登った甲斐があった。看板の「フォアグラ」に心を動かされつつ、調べたら輸入物らしいので断念。只見の町でソース煮込みカツ重を頬張る——卵トロトロ、黒胡椒の効いたパンチのある味で(゚д゚)ウマー。
一日二本きりの「自然首都只見号」バスで会津田島へ。おばちゃんが運転し、外国人さんが補助につく、のどかな便だ。やることもないので田島の町をぶらり。会津はどこもかしこも古峯(ふるみね)神社だらけ——道端の石碑に手を合わせ、小高い展望台から山あいを見晴らす。夕飯は買い込んだ惣菜に、会津名物のぞうりぱんと苞豆腐。黒糖の素朴な甘みに、ローカル旅の夜がふけていく。
只見線、まもなく全線再開
2011年の新潟・福島豪雨で只見〜会津川口が不通となり、長くバス代行が続いていた只見線。この旅のちょうど二週間後、2022年10月1日に全線運行が再開した。只見川に沿って福島・新潟の県境、六十里越を抜ける山峡の車窓は「日本一ローカルな秘境路線」とも呼ばれ、国内外から鉄道ファンが訪れる。只見のふもとには、巨大な田子倉ダム・只見ダムをはじめ、戦後の電源開発を担った水力発電の遺産が点在する。
前沢曲家集落と桧枝岐村、塩原温泉泊
朝の会津田島。台風は近づいているが、会津盆地のほうはまだ晴れている。会津高原尾瀬口駅でバス待ち二時間、二十人のロード軍団に駅を占拠されるハプニングもありつつ、朝ごはんは山ウドのほろ苦いウドリカレーで腹ごしらえ。山越えのバスで前沢曲家集落へ入ると、茅葺き屋根がずらりと並ぶ別世界。入村料を払って集落を歩き、お土産に「熊の爪」を買った。屋根の上の巣箱では、蜂蜜もとれるらしい。
バスを乗り継いで、初めての桧枝岐(ひのえまた)村へ。星・橘・平野——三大檜枝岐姓の里で、まずは裁ちそばとはっとう。十割でバサバサするから布を断つように切る、だから「裁ちそば」なのだという。香り高いそばに、イワナの天ぷらはナマズのように柔らかく、ピリ辛の薬味がよく合う。こんな山奥なのにご馳走だらけだ。村には、山の斜面を客席にした桧枝岐の舞台——農民が代々守ってきた歌舞伎の芝居小屋が、ひっそりと残っていた。
そして、ついに雨。燧(ひうち)の湯で硫黄の香るお湯にちゃぷんと浸かって雨宿り。南会津の宿はどこも満室で、尾瀬口へ引き返し、野岩(やがん)鉄道で県境を越える。上三依塩原温泉口で一時間待ち、雨風がだんだん強まるなか、たどり着いたのは塩原温泉。CMで見たホテルニュー塩原を横目に宿へ。夕飯は千本松牧場の味に地酒「天鷹」、台風コロッケならぬエビクリームコロッケも添えて、しみじみ温泉の夜。
桧枝岐歌舞伎
尾瀬のふもと、福島県南会津郡桧枝岐村に江戸中期から伝わる農村歌舞伎。鎮守神社の境内に、山の斜面をそのまま客席に見立てた茅葺きの舞台(国指定重要有形民俗文化財)があり、村人が役者も裏方もつとめて代々受け継いできた。三大姓とされる「星・橘・平野」のように、この山里は独特の文化と暮らしを育んできた。名物の裁ちそば(十割そばを布のように重ねて包丁で裁つ)やはっとう、イワナの天ぷらも、山深い村のごちそうだ。
烏山の洞窟酒蔵から水戸・茨城空港、石岡の祭り
三日目は台風一過……とはいかず、風は強いが雨はやんでいる。蒸し暑いなか、今年初の彼岸花(曼珠沙華)に出会う。バスを乗り継いで栃木から茨城へ。烏山で朝そばを手繰り、お目当ては島崎酒造のどうくつ酒蔵——戦時中に掘られた巨大な地下壕で、入口から漏れ出す冷気がすでに涼しい。タブレットを手にスポットへ近づくと勝手に解説が始まる進化ぶりに驚きつつ、そこそこお高い古酒の飲み比べセットをお買い上げ。
県境を越え、稲架掛けと曼珠沙華と蕎麦畑のきれいな道を抜けて道の駅みわへ。スタミナ定食でがっつり補給する。高部宿では、ハイカラで立派な古い建物が次々に現れて「すごいすごい」を連発。米畑のとなりに広がる「電気畑」のソーラーパネルを横目に、常陸大宮から水戸へ。納豆記念碑に挨拶して、バスで茨城空港まで足をのばす——飛ぶわけでもない冷やかしの旅人を、夜の空港がぽつんと迎えてくれた。
石岡に着くと、まさかの大にぎわい。今日は石岡のおまつりだった。提灯をともした山車が大通りを練り歩き、町内ごとの幌獅子が駅前に集結する。四日間も続くというこの規模の祭りに、常陸牛ステーキ、焼きそば、フランク——飲み物を先に買って身動きが取れなくなる痛恨のミスもありつつ、祭りのグルメを堪能。台風をひらりとかわしきった三連休は、常陸路の熱気のなかで幕を閉じた。
島崎酒造 どうくつ酒蔵
栃木県那須烏山市にある島崎酒造が、戦時中に掘られた巨大な地下壕を利用した貯蔵庫。もとは軍需工場を疎開させるために掘削された横穴で、総延長は長く、年間を通じて10℃前後に保たれるため日本酒の長期熟成に適している。壕内では購入した酒を名前入りで預け、記念日に受け取るサービスも人気。ひんやりとした坑道に古酒がずらりと並ぶ光景は、酒蔵というより地下神殿のよう。看板銘柄は「東力士」。近くの龍門の滝とあわせて、烏山の見どころになっている。