東京駅から夜行バスで庄内へ出発
旅のはじまりは夜の東京駅。八重洲口の大きなバスターミナルから、国際興業の夜行バスに乗りこむ。シートに身をあずけて目を閉じれば、走り出したバスはもう東北へ。車窓の闇の向こう、まだ見ぬ日本海を思いながら、浅い眠りに落ちていった。
酒田から飛島へ 離島を一周し酒田泊
早朝、酒田着。まずは朝ごはん、海鮮どんやとびしまの朝定食。焼き魚に具だくさんのアラ汁がついて五百円という気前のよさに、旅の気分が一気にあがる。黒い板塀の山居倉庫をぐるりと歩き、涼しい風とトンボの舞う朝の港から、定期船で沖合の離島・飛島へ向かう。
勝浦に上陸。小さな島と侮っていたら、海岸線にはずっと集落がつづき、廃屋も民宿もあちこちに。昔はずいぶん栄えたのだろう。奥深いテキ穴洞窟にもぐり、しめ飾りをかかげた家々、ペンキ塗りの法木集落を抜ける。夏草に埋もれた避難路を蜘蛛の巣まみれで登れば、沖にぽつんと御積島。荒崎には、咲きおわりかけのトビシマカンゾウ。賽の河原の静けさと、最後のダイナミックな地形まで、島を一周するころにはもうへとへとだった。
本土にもどり、文化財級の本館をもつ古い旅館にチェックイン。人けのない酒田の夜をぶらついて、ようやく見つけた居酒屋で乾杯。ハートランドの生に、地物のとびうおや真っ赤なトマト、茄子、おまけのメロンまで。日本海の幸をたらふく味わって、濃い一日がしずかに暮れていった。
飛島ってどんな島?
山形県唯一の離島で、酒田港から定期船でおよそ一時間半。周囲約十キロの小さな島に、勝浦・法木などの漁村が点在する。暖流の対馬海流と、南限に近い高山植物トビシマカンゾウが同居する独特の自然で知られ、初夏には島のあちこちが黄色い花におおわれる。かつては北前船の寄港地としてにぎわい、島内には賽の河原や奥深い洞窟など、素朴な信仰と地形のおもしろさが残る。
酒田散策から笹川流れ経由で新潟へ帰路
三日目の朝は、旅館の朝ごはんから。酒田産コシヒカリに、ずっと食べたかった塩納豆、味噌汁にはバイ貝——これぞ庄内という一膳だ。日差しのきついなか、料亭建築の相馬楼をながめ、彫刻のみごとな日枝神社へ。日和山公園からは、静かな酒田の港町が一望できた。幼稚園の園庭に立つ酒田大仏にあいさつして、駅へ向かう。
ここからは羽越本線の鈍行で、のんびり海沿いを南下。今川で降りれば、思わず声が出るほど透きとおった海がひろがっていた。素掘りのトンネルをくぐり、村を守る素朴な道祖神・板貝のさいの神に手をあわせ、名勝・笹川流れの岩礁をたどる。桑川の道の駅では、旬の岩がきをつるり。
新発田をへて、日が暮れるころ新潟着。真新しくなった駅にとまどいつつ、名物のせきとり半身揚げで乾杯——皮はカリカリ、ほんのりカレー味。メディアシップの展望室から夕日を見送れば、信濃川のやすらぎ堤では屋台とあかりがにぎやかに。佐渡おけさの祭りばやしを横目に、日本海の三日間をしめくくった。
笹川流れ
新潟県村上市、日本海に面して約十一キロつづく国の名勝・天然記念物の海岸。澄んだ海にけずられた奇岩や洞窟、断崖がつらなり、「眼鏡岩」をはじめとする奇勝が点在する。その名は、荒波が岩のあいだを笹の葉舟のように流れくだるさまに由来するという。羽越本線が海ぎわを走り、鈍行の車窓からも、素掘りのトンネルを抜けながら絶景を楽しめる。