夜行バスで信州へ出発
夏の夜、新宿サザンテラスのペンギンに見送られて、アルピコの夜行バスに乗りこむ。目指すは涼しい信州。毎度おなじみの乗り場から、まどろみのなかを北へ北へと運ばれていく。
途中のサービスエリアで一度おこされ、ここはどこ、わたしはだれ。ふたたび眠りに落ちて、気づけばもう長野のどこか——朝はすぐそこだった。
松本城から乗鞍・畳平で高山植物
早朝の松本に降り立つと、さすがに朝はまだ涼しい。時間に余裕があるので、いちばん好きなお城——松本城を冷やかしに。黒い天守を見あげ、四柱神社で茅の輪をくぐって、白壁のつづく中町通りを抜ける。新島々、平湯と乗り継いで、奈川渡ダムの深い碧を横目に、バスはぐんぐん山を登っていく。
畳平はもう雲の上、標高2700m。涼しいけれど日差しは強く、空気は薄い。コマクサやハクサンイチゲの咲くお花畑を歩き、ライチョウを探して大黒岳へ。岐阜側は雲、長野側はいい景色。剣ヶ峰までは残雪とあやしい空模様で断念して、おにぎりを頬ばって引き返す。
と、大粒の冷たい雨。みるみる土砂降りになって、ターミナルでは何台ものバスが身を寄せ合う。山はこわい。乗鞍高原の温泉宿にしけ込んで、素泊まり五千円の湯にのんびり浸かり、野沢菜ピザとビールで一日をねぎらう。夜ふけ、雲が切れて——肉眼ではうっすらの天の川が、空いっぱいに流れていた。
雲の上のお花畑 ― 乗鞍・畳平
乗鞍岳の畳平は標高約2700m。マイカー規制でバスやタクシーでしか上がれない、日本有数の高所にある峠だ。夏でも15℃前後と涼しく、短い夏に高山植物がいっせいに咲く。淡紅色のコマクサは「高山植物の女王」と呼ばれ、ほかの草木の生えない砂礫地にひっそりと根を張る。ハイマツ帯には国の特別天然記念物・ライチョウがすみ、天敵の現れにくい雨やガスの日ほど姿を見せるというが、この日はとうとう会えずじまいだった。
大糸線で大町・長野、善光寺参拝
朝風呂をすませ、信州味噌の朝ごはんでしゃきっと目覚める。あいにくの曇り空、山はまたの機会にして、きょうは里へ降りることに。新島々から松本へ戻り、大糸線のローカル電車に揺られて大町へ。
信濃大町の駅前には、雁木(がんぎ)のつづく長い商店街。大正からつづく床屋、酒蔵、百歳ノ蔵——にぎわいの名残をとどめた建物が、しずかに軒をつらねる。活気はいまひとつでも、通りすがりのまちの人が建物の由来を教えてくれる、そんなあたたかさがあった。
電車を乗り継いで長野へ。地下を走る長野電鉄で権堂へ出て、善光寺にお参り——と思いきや、御開帳はひと足ちがいで先月まで。前立本尊はどこへやら、とりあえず回向柱にふれておく。しめは権堂の路地で信州餃子と、まさかのパスタな「ヤキメン」。味噌とにんにくのパンチがきいて、これが存外うまかった。
善光寺と御開帳
無宗派の古刹・善光寺の御本尊は、日本最古とも伝わる一光三尊阿弥陀如来。絶対秘仏で、誰も目にすることはできない。数えで七年に一度の「御開帳」の間だけ、御本尊の分身である前立本尊が公開され、本堂前には高さ約10mの回向柱が立つ。この柱は前立本尊の右手と善の綱で結ばれ、触れると如来とご縁を結べるという。……が、この旅の御開帳は、ひと足ちがいで先月に閉じたあとだった。謎はすべて解けた(´;ω;`)