夜行バス、四国へ
旅のはじまりは夜行バス。四国をめざす高速道のパーキングエリアで、やけに見覚えのあるペンギンに出会う。みんなが「親の顔より見た」というそれは、磨き上げたら旅人の素顔まで映り込みそうなほど、つやつやに光っていた。
休憩予定のPAをうっかり通り過ぎてしまったりしつつ、バスは夜の瀬戸内へ。明日からの島めぐりを思い描きながら、揺られて眠りにつく。
玉ねぎと瓦と、大鳥居の島
早朝、徳島に到着。蒸し暑い朝の町をバスと渡し船でつなぎ、いよいよ淡路をめざす。長原の先っちょ、小屋のおっちゃんに声をかけると出してくれる渡し船で、川幅のひろい河口をひとっ飛び。大鳴門橋をバスで渡れば、ついに淡路島上陸だ。
淡路はとにかく玉ねぎと瓦の島。ナンバープレートのない「農民車」が平然と走り、玉ねぎを吊るす小屋があちこちに立ち、彩りゆたかな瓦の山がピラミッドみたいに積まれている。魚屋の食堂でたこ飯セットをかきこみ、おのころ島神社のばかでかい朱の大鳥居も見上げた。国生み神話の島に来た、という実感がわいてくる。
午後、空が急に暗くなって雷がゴロゴロ。木陰で雨宿りしてもやまないので、たまねぎ倉庫を改装したカフェへ避難し、淡路島牛乳のスイーツで一息つく。線状降水帯の通り雨をやりすごし、田植えの遅い初夏の田園をぬけて洲本へ。夜は買い込んだ海の幸や淡路の玉ねぎを、部屋いっぱいに広げてほおばった。
淡路島は玉ねぎと瓦の島
淡路島は日本有数の玉ねぎの産地。水はけのよい土と温暖な気候で甘い玉ねぎが育ち、収穫後は風通しのよい「玉ねぎ小屋」に吊るして、じっくり時間をかけて乾かす。もうひとつの名産が瓦で、島の南部・津井あたりは「淡路瓦」のいぶし銀の産地として知られる。粘土を焼き上げた瓦が山と積まれる光景は、この島ならでは。ナンバープレートを付けず農道だけを走る三輪・四輪の「農民車」も、淡路の畑の名物だ。
国生みの島・沼島へ
三日目は曇り空。バスと船を乗り継いで、国生み神話の島・沼島へ渡る。紀淡海峡を境に天気が変わるほど、淡路の裏側は険しい。神話めいた島影がだんだん近づいてきて、わたるぞー。
上陸すると、港にねこびとがちょろちょろ。坂をのぼって自凝(おのころ)神社に手を合わせると、天沼矛を手にしたイザナギと、寄り添うイザナミの石像が迎えてくれた。島の裏側へまわれば——天を衝く奇岩・上立神岩(かみたてがみいわ)。二神が国生みのときに立てた「天の御柱」とも伝わる、高さ30mの一枚岩だ。木苺を見つけたり、カラフルな木製リアカーの並ぶ漁村をあるいたり。井戸を「川」と呼ぶのが、この島のならわしらしい。
淡路に戻って、昨日は休みだったジェラート屋でなるとオレンジミルク。慶野松原ではもう泳いでいる人がいて、六月の終わりとは思えない夏空がひろがる。神姫バスで三ノ宮へ出て、味噌だれ餃子で一杯。新神戸から新幹線で帰路につく。イスズベーカリーの長いトレロンをかじりながら、国生みの島の旅はおしまい。
沼島と上立神岩
淡路島の南に浮かぶ周囲約10kmの小島・沼島は、おのころ島の有力な候補地。島の南岸にそびえる上立神岩(かみたてがみいわ)は、海面から約30mも突き出す鋭い一枚岩で、イザナギ・イザナミが国生みの舞台にした「天の御柱(あめのみはしら)」の跡だと伝えられている。島には国生み神話をまつる自凝(おのころ)神社があり、漁師町の路地には海外出稼ぎ時代の名残という色鮮やかな家々が並ぶ。井戸のことを「川」と呼ぶのも、この島の古い習わしだという。