弘前城の桜と大平山元遺跡、夜の弘前公園
夜行バスで着いた弘前は、まだ肌寒い朝。弘前公園に入ると、葉の出はじめた木もちらほらあるけれど、桜はまだまだ健在だ。城の濠ぞいを歩けば、風のたびに花びらがひらひらと舞い落ちる——桜吹雪とまではいかなくとも、「桜小雪」くらいの散りぐあい。濠の水面には、散った花びらが寄り集まって淡いピンクの帯をつくり、頭上には桜のトンネルがつづく。津軽家の紋を染めた幔幕のならぶ天守が、しずかに花に囲まれていた。
仲町の武家屋敷をのぞき、屋台の手作り看板にくすりとしてから、いったん弘前をはなれる。本当はこの日、むつ湾フェリーでのイルカ探しが目当てだった。けれど蟹田は「風の町」——津軽線を乗り継いで港に着いたころには強風で全便欠航、イルカどころかフェリーを眺めるだけで引き返すことに。青森へ戻って海老あんかけ焼きそばで気を取り直し、空いた時間を使って世界遺産・大平山元遺跡へ。縄文のはじまりを告げる土器が出たこの地では、廃校を使ったふるさと資料館の展示がなんとも味わい深かった。
そして夜、ふたたび弘前公園へ。灯りに浮かぶ夜桜と、昼とはまた違う表情の花筏——濠の水面が、散った花びらでまるごとピンクに染まる。人気の屋台には長い行列、国内有数の桜まつりの熱気にひたったあとは、津軽の地酒「豊盃」と名物いかめんちで、青森の夜をしみじみ味わった。
弘前公園の桜と花筏
弘前公園(弘前城跡)は、ソメイヨシノを中心に約2600本の桜が咲きほこる、国内でも指折りの桜の名所。りんご栽培でつちかった剪定の技を桜に応用し、一つひとつの花芽を充実させることで、枝いっぱいに花をつけるのだという。見頃の終わりに現れるのが「花筏(はないかだ)」——散った花びらが外濠・西濠の水面をびっしりと覆い、淡いピンクの絨毯になる景色だ。春の弘前が、散り際にもう一度魅せる大技である。
蟹田から脇野沢へ、仏ヶ浦遊覧と下北半島
二日目は早朝の蟹田から再出発。昨日とちがって風はおだやかで、むつ湾フェリーのリベンジは無事成功した。青森港で見送った青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸、観瀾山からながめた蟹田の港、そして海の向こうに島のように横たわる下北半島。「いるかに会い隊」のジャージ軍団がカメラ片手に乗りこんでくるなか、航路の途中では白い模様のカマイルカが、ちらりと背を見せてくれた。
脇野沢に上陸して、そのまま遊覧船で仏ヶ浦へ。かなり揺れるぶん迫力は満点で、やがて現れたのは白緑色の奇岩が連なる不思議な岸辺——まわりの崖は茶や赤なのに、ここだけが白い。上陸して奇岩のあいだを歩き、のこぎり歯のような岩壁を見あげ、海の水の透きとおった青さに見とれた。戻って脇野沢で魚の塩焼き定食、米がべちゃっとしていたのはご愛嬌。
バスでむつ市大湊へ。海上自衛隊の基地には護衛艦が停泊し、水源池公園では桜が花盛り。線路ぎわにはヤギかと思いきやカモシカ——親子で、子は毛が白いのだという。本州最北をゆく大湊線の終点・大湊駅から列車に揺られ、浅虫温泉でひとっ風呂。青森に戻って有名店・長尾中華そばのこく煮干しラーメンをすすり、夜行バスで北国の春をあとにした。
仏ヶ浦
下北半島の西岸、津軽海峡をのぞむ約2kmにわたる海食崖。緑色凝灰岩が長い年月の波と風に削られ、白緑色の巨岩・奇岩が林立する。如来の首、五百羅漢、極楽浜……仏の名を冠した岩々が並ぶことから「仏ヶ浦」と呼ばれ、国の名勝・天然記念物に指定されている。周囲の崖が茶や赤をおびるなか、ここだけが白くかがやくのが不思議なところ。陸路は急な遊歩道、海路は遊覧船でたどりつく、下北屈指の秘景だ。