東京発、富山湾岸を徹夜でホタルイカ探し
お目当ては、春の富山湾だけに現れる「ホタルイカの身投げ」。産卵のために深海から浮上した群れが波に巻かれて浜に打ち上げられ、渚が青白く光る——そんな夜の奇跡を求めて、金曜の夜に東京を発った。岩瀬浜に着くと、同じ光を求めた車が駐車場をびっしり埋め、ライトを手にした人影が波打ちぎわにずらり。関東から近畿まで、みんな同じ青に呼ばれてきたらしい。
岩瀬浜から八重津浜、海老江へ。富山湾の渚を、ライト片手に徹夜で歩く。波は高く、SNSにも🦑の報せはない。しんと静まった真夜中の岩瀬の町並みだけが、やけに美しかった。結局ひと晩で一匹の身投げも見られないまま、山の端から朝日がのぼる。「せめて一匹でも見たかった」とつぶやきながら、かじかむ手に息を吐いた。
ホタルイカの身投げ
富山湾の春の風物詩。産卵のため深海から浮上したホタルイカの群れが、波に巻かれて浜へ打ち上げられる現象を「身投げ」と呼ぶ。新月まわりの夜、波打ちぎわがびっしりと青白い光にふちどられる幻想的な光景で、網を手にすくう人の姿も名物だ。ただし現れるかどうかは運次第——風・波・月齢の条件がそろわないと、ひと晩歩いても一匹も見られないことは珍しくない。この晩も、ついに青い光は現れなかった。
富山から氷見・七尾へ 能登の海鮮と富山湾めぐり
眠い目をこすって朝の富山へ。県営渡船にとび乗り、タグボートに押される製紙工場のチップ船や新湊大橋を眺めながら越ノ潟へ渡る。乗って100円、ちょっと得した気分。高岡で昆布づくしのちゃんぽんをすすり、氷見線にゆられて氷見の町へ。
氷見の商店街は、藤子不二雄Ⓐでおなじみのまんがロード。🌸はまだ咲きはじめ、魚屋には「氷見産くじらあります」の札。かまぼこみたいな家並みを抜け、加越能と北鉄のバスが入れかわる県境のバス停から七尾へ。昼はいしり(魚醤)を使った能登の料理と、身のぎっしり詰まった能登牡蠣——これが(゚д゚)ウマカー。
夜はリベンジを期して滑川の宿へ。海の見える部屋に荷をほどき、居酒屋にくり出す。イカの刺しにイカそうめん、昆布締めの刺身、さくさくのゲンゲの唐揚げ……富山湾の恵みに熱燗をあわせて、浜で見られなかったぶんを胃袋で味わった。ホタルイカの天ぷらは胃袋と相談して見送り、明日こそ湧くといいな、と願いながら二次会へ。
いしりと、富山湾の恵み
「いしり(いしる)」は、イカの内臓やイワシを塩に漬けて発酵させた能登の魚醤。秋田のしょっつる、香川のいかなご醤油とならぶ日本三大魚醤のひとつで、独特のコクと香りが鍋や煮物の隠し味になる。富山湾は水深1000mを超える深い湾で、ホタルイカ・白えび・ゲンゲ・寒ブリなどが揚がる「天然のいけす」。昆布を愛する富山では、刺身の昆布締めも食卓の定番だ。
滑川から富山 運河クルーズと花見、黒部で帰路
結局ホタルイカは最後まで湧かず。けれど、おかげでぐっすり眠れた——と笑って、割烹の豪華な朝ごはんから三日目がはじまる。滑川の海辺を散歩し、漁村と宿場をまぜたような町並みを水橋まで歩く。世界有数の急流・常願寺川は、河口でも流れがはやい。
富山にもどって、岩瀬から富岩水上ラインの運河クルーズへ。ハイライトは中島閘門——水をためて船ごと持ち上げる「ミニ・パナマ運河」だ。前後の扉を閉め、水位がぐんぐん上がって船が浮かぶ瞬間は、ちょっとした見もの。たどり着いた環水公園では、桜が咲きそろって大にぎわいだった。
いたち川、松川、富山城址——満開の桜と屋台をはしごして、花見三昧。地鉄にゆられて魚津へ出て、まさかこんなところに、という硫黄泉の金太郎温泉でひとっ風呂。黒部宇奈月温泉の居酒屋はくたかで、みょうが寿しに山菜の昆布締め、三角どらやきまで平らげて、新幹線で東京へ。青い光には逃げられたけど、まんぷくで帰る富山の三日間だった。
中島閘門
富岩運河の水位差(約2.5m)を調整する水門で、昭和9年完成のいまも現役の施設。前後の扉を交互に閉めて水をため、船を階段のように上下させる仕組みから「ミニ・パナマ運河」とも呼ばれる。運河建設当時の姿をよく残す閘門として、国の重要文化財に指定されている。富岩水上ラインの遊覧船は、この閘門を実際に通りながら水位の上下を体験できるのが見どころ。