宇都宮経由で茂木の花の名所と馬頭温泉へ
早朝、まだ眠い関東平野を電車が進む。宇都宮でいったん降りて、ホームの立ち食いで朝そばを一杯。しらすごはんを添えて、旅のエンジンをあたためる。餃子の町をあとに、季節運行の「みつまた特急」バスに乗り換え、さらにバスを継いで向かうのは、茂木の奥にひっそりと咲くミツマタの里。
シャトルバスの発着が今年から遠くなり、片道だいぶ歩かされて汗だく。それでも谷を埋めるミツマタの淡い黄色に出会えば、不満はどこかへ。満開は来週くらい、という咲きはじめの初々しさがかえって愛おしい。道の駅もてぎで栃木名物をつまみ、茂木の市街へ。
市貝のご当地グルメ・とまとろ丼にありついたのが昼どき。トロトロの卵丼にケチャップ風味の餡、トマトとアスパラ。これで650円は安すぎる、とうなる一杯だ。烏山で乗り継ぎ、造り酒屋を横目に那珂川町へ。道の駅ばとうで温泉とらふぐ蒟蒻やとちおとめを買い込んで、今夜は馬頭温泉の宿へ。
川を見下ろすピンクずくめの部屋に荷をほどき、つるすべのいいお湯をたっぷり。ビールにスモーク豆腐、地酒の惣誉と栃木名物のレモン牛乳……部屋でちびちびやる夜がいちばん楽しい。締めは福屋のいちご大福。あんと生クリームと大粒の苺が、今まで食べたなかで一番かも、と唸るやわらかさだった。
焼森山のミツマタ群生地
茂木町の山あいにひっそり広がる、ミツマタ(三椏)の群生地。ミツマタは枝が三つに分かれて伸びる落葉低木で、三月から四月、葉に先がけて淡い黄色の小花をまりのように咲かせる。樹皮は和紙の原料として知られ、紙幣にも使われてきた良質の繊維をとる。戦時中の紙不足を案じた地元の人が植えたものが、戦後いったん忘れられ、平成に入って山の間伐で光が入ると一気に群生を広げたという。見頃には谷いっぱいが黄色いぼんぼりに灯る。
カタクリ群生地から喜連川温泉・真岡を経て帰宅
ホーホケキョの声で目が覚めた。風はあるけれど、天気は上々。朝風呂でさっぱりして、栃木名物のレモン牛乳で一息。きょうは春いちばんの花、カタクリに会いにいく。
群生地はまだ早いかと思いきや、よく見るといっぱい咲いていた。うつむいて花びらをそり返す、紫の小さな星。カタクリの球根からとれるのが、ほんものの片栗粉なのだという。かたわらにはミズバショウも、妙に等間隔に顔を出して、雨上がりの朝の光に濡れていた。
バスでさくら市・喜連川へ抜ける。町おこしのために掘ったという喜連川温泉はつるつるのいいお湯。お丸山にのぼれば、営業をやめたスカイタワーが時の流れを物語る。御用堀の水のせせらぎを聞きながら町をあるき、開店から行列のラーメン屋で竹末本店の一杯——全体にレベルが高くて旨い、刻みタマネギがいい仕事をしていた。
氏家から真岡へ。木綿で栄えた城下町は、海鼠壁の金鈴荘のような古い商家が今も残る。花手水と路地の猫に見送られ、真岡鐵道のローカル線で下館へ。〆のつもりが本番になった下館のB級グルメ巡り——刺身で一杯、焼きそばと餃子、そして鶏皮を乗せたワンタン。食べ歩きで満腹のまま、ローカル線に揺られて帰路についた。
カタクリと片栗粉
カタクリ(片栗)は、早春の雑木林の林床に咲くユリ科の多年草。花茎の先にうつむいて一輪、紫がかったピンクの花をつけ、晴れた日の日中だけ花びらを大きくそり返す。発芽から開花まで七、八年かかる、気の長い花だ。かつては地下の球根(鱗茎)から良質のでんぷんをとり、これが本来の「片栗粉」。いま市販の片栗粉のほとんどはジャガイモ由来で、カタクリ製は今やほとんど出まわらない。