塩谷・東武矢板線跡を歩き鬼怒川温泉へ
午前3時起き。珍しく山手線のホームから一日がはじまる。駅そばで一杯すすって体を起こし、北へ。宇都宮では路線バスに揺られて、塩谷町の玉生へ入る。やっぱり東京とは寒さがちがう。
ここからは廃線さんぽ。1959年に消えた東武矢板線の跡を、船生・新高徳の方へてくてくたどる。芦場駅跡、天頂のあたり——いまはなんにもない原っぱや集落に、かつてここを汽車が走っていた気配だけがぽつんと残る。あちこち凍てついて、正面には雪をかぶった日光の山なみ。船場亭で鹿沼こんにゃくのおでんと日光産まいたけの天ぷらをほおばって、ようやく温まる。
大桑でSL大樹(の壁画)にばったり遭遇、そのまま東武線で鬼怒川温泉へ。駅では本物のSL大樹が湯気を上げていた。日が暮れて、ぬるぬるの「ぬる湯」で知られる温泉宿へ。広すぎる部屋に、掛け流しのお風呂。提灯が灯る露天風呂はぬるくて無限に入れる。海なし県のくせに刺身がうまく、炊き込みご飯はおかわり自由でつい2回おかわり。3時起きの一日が、湯気のなかでとろけていく。
東武矢板線
矢板と新高徳をむすんでいた、全長約23.5kmの東武鉄道のローカル線。1924年に開業し、沿線の木材などを運んだが、クルマの時代に押されて1959年に廃止された。いまは駅跡の原っぱや切り通し、藪にのまれた構造物だけがひっそり残る。地図に線路は無くても、歩けば築堤や緩いカーブに「かつてここを汽車が走っていた」痕跡が足もとに立ちあらわれる——廃線さんぽのたのしみは、その気配を拾うことにある。
日光杉並木街道の散策と宇都宮・小山
朝風呂からの、朝ごはん。菜っ葉の味噌汁で体を起こしてチェックアウト。鬼怒川の観覧車「日光ランドマーク」では、床まで透けるスケルトンのゴンドラにうっかり乗ってしまい、足もとがスケスケで足がすくむ。てっぺんからは、雪をかぶった日光連山が一望だった。下今市でSL大樹を見送って、今市から日光杉並木街道へ分け入る。
杉並木は、ハジからはじまで37km——日本一長い並木道だ。日が差し込まない杉のトンネルはしんと冷えて、車両通行止めの区間は廃道のような静けさ。追分地蔵尊を過ぎ、両脇を水路が流れる未舗装路をただただ歩く。みつぎ食堂で手打ちそばとカツ丼(かつもり)をかきこんで、冷えた体に燃料を入れる。
海老王子のバス停から宇都宮へ戻り、最後の目的地・下野の星宮神社へ。『日本一の行灯祈願鳥居』と、巨大なトトロの行灯(妖怪の類い?)がお出迎え。柱には願いごとがびっしり、日が暮れるとぼうっと灯る。辺鄙な集落の外れなのに、しっかり参拝客でにぎわう逞しさ。締めは小山の老舗・一品香で、極太ちぢれ麺のラーメンとでかすぎる餃子。ぶっひぃ、おなかいっぱい。地味で濃い栃木の二日間、完走。
日光杉並木街道
日光・例幣使・会津西の三街道にのびる、総延長約37kmの世界一長い並木道。徳川家康の忠臣・松平正綱が二十年あまりをかけて杉を植え、家康の三十三回忌に日光東照宮へ寄進したと伝わる。いまも一万本をこえる老杉が立ち並び、特別史跡と特別天然記念物の両方に指定された、全国でただひとつの並木道でもある。日の差さない杉のトンネルは夏でもひんやり、冬はいっそう身が引きしまる。