後閑から猿ヶ京へ 法師温泉と赤谷川筋の宿場巡り
旅のはじまりは後閑駅。バスに乗り換えて赤谷川の谷を奥へ奥へ、一番おくの猿ヶ京までのぼっていく。相模原ですら雪なのに、ここはまだ雪ナシ——「グンマー遅れてるぅ」なんて軽口をたたきながら、しだれ桜のバス停でおりた。咲いたらさぞ見事だろう枝ぶりを、冬枯れの梢に想像する。
冬季休館の永井宿郷土館を横目に、長閑な宿場をひとつ抜けて法師温泉へ。めあては長寿館の名湯・法師乃湯。入館時にスマホは没収——盗撮対策だろうが、湯船に向かって無言で並ぶ先客たちの背中に、ちょっと異様な気配もただよう。足元から湯が湧くというぬる湯に身をしずめ、ふぅ、とひと息ついた。
午後は道の駅たくみの里で新そば。須川宿のしぶい町並みをひやかし、湯宿温泉では竹の湯・小滝の湯と外湯がいくつも並ぶ、濃い温泉文化にうならされた。「ゆじゅく温泉ゆうえんち」のゆるい看板に笑い、猿ヶ京で名物の酒まんをGET。日が暮れて宿の藤屋へ。しゃぶしゃぶ御膳に舞茸ご飯、〆のそばまでついて、白ご飯を二杯おかわりしてしまった。
法師温泉と法師乃湯
赤谷川の支流・湯ノ沢のほとりに一軒宿としてたたずむ、みなかみの秘湯。明治期に建てられた本館や湯殿は、国の登録有形文化財に名を連ねる。名物の「法師乃湯」は、ひのきの湯枠を組んだ大浴場の床の玉石のあいだから、源泉がふつふつと足元湧出する鹿鳴館風の名湯。ぬるめのお湯に長くひたるのが流儀で、昔の国鉄のポスターにも登場したことで全国に名を知られた。日帰り入浴は時間が限られ、混雑時は断られることもあるという、知る人ぞ知る湯だ。
猿ヶ京朝さんぽとロックハート城、中之条から帰路
三時起きのおじいちゃん、もとい早起きの旅人は、まだ暗いうちから朝風呂。夜が明けると猿ヶ京の町へさんぽに出る。元旅館や元飲食店がぽつぽつ残る町外れに、きつねの湯。湯けむりが朝日に白くけぶり、石の湯口からは源泉がこんこんと流れ出していた。狐の尻尾の女の子でもお持ち帰りしたい——なんてたわごとを言いながら、湯の気配の濃い一帯をひやかしてまわる。
猿ヶ京といえばバンジー。谷にかかる真っ赤な会場をのぞき込み、「紐なしバンジーいける?」の与太話で盛り上がる。……そして、気づけば旅人は石造りの古城の前に立っていた。異世界転生か、はたまた——その正体は、石材店が営む大理石村ロックハート城。群馬の山中に忽然とあらわれるヨーロッパの城館に、スレも大盛り上がり。ハートだらけの甲冑に出迎えられ、らせん階段をのぼり、剣と魔法の世界に迷い込んだ気分を味わった。
帰りぎわ、青い赤谷湖に雪の山なみが映るのをしばし眺める。道の駅中山盆地でそばいなりに舌鼓を打ち、温泉でもうひとちゃぷ。締めは中之条の鶏カツ——量が多い! 程よい熱さのスープまで難なく完飲して、電車に飛び乗る。高崎で新宿直通を二分差で逃す「クソダイヤ」にうなだれつつ、あっという間の二日間を惜しんで東京へと帰った。
大理石村ロックハート城
群馬・吾妻郡高山村にある、石をテーマにしたテーマパーク。中世スコットランドに実在した古城を日本に移築・復元したもので、石材店が経営していることから「大理石村」を名のる。石造りの城館や教会、世界中の石の展示が山あいに広がり、ドレスをまとう「プリンセス体験」でも知られる。群馬の山中に忽然とあらわれるヨーロッパの城景は、まさに異世界——思わず「剣と魔法の世界へようこそ」と言いたくなる。