新宿から夜行バスで出発
旅のはじまりは、新宿のバスタ。Suicaのペンギン像に見送られて、岡山方面ゆきの夜行バスに乗りこむ。リクライニングを倒して目をつむれば、朝にはもう中国山地のまんなか——師走の二泊三日、まずは眠りながら西へ向かう。
津山・美作を巡り湯郷温泉泊
最低気温0℃の津山に、夜行バスが朝いちで到着。きれいになった駅前から歩きだすと、ソシオ一番街、銀天街と、シャッターは多いながらもアーケードがどこまでも伸びていく。想像よりずっと大きな町だ。城西の重伝建地区では、丸屋根の洋館やなまこ壁の商家が、しっとりと軒を連ねていた。
美作一宮・中山神社は、「中山造」という独特の社殿で知られる古社。わきの岩陰には、さるぼぼを供えた小さな猿神社がちょこんと鎮座する。ようやく藤田製パンのあさごパンで腹を満たし、神楽尾城跡の山頂で、冬らしい陽と陰の景色を見渡した。昼は人気店のとん㐂で味噌カツ定食。城東のむかし町並みでは、B'zの稲葉さんの実家・イナバ化粧品店にも遭遇した。
勝間田駅で降りて勝央町へ。鹿の角を掲げた店、岡山なのになぜか金太郎推し、金色にギラつく郷土美術館……と、ツッコミどころが続く。夕方には湯郷温泉へ。黒い湯の花が舞う源泉かけ流しの外湯でほどけたあとは、入りたかった地元の人気店が満席で、結局スーパーで地酒とつまみを調達。煮こごりに作州武蔵、部屋でしみじみ乾杯した。
美作と津山
岡山県の北東部、鳥取との県境に広がるのが美作(みまさか)国。その中心・津山は、森氏・松平氏が治めた城下町で、出雲街道の宿場としても栄えた。商都のなごりで、駅前から城下にかけてアーケード商店街が長く続く。城東・城西のふたつの地区は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれ、なまこ壁の商家や洋館がいまも残る。B'zの稲葉浩志さんの出身地としても知られ、実家の化粧品店にはファンが訪れる。
展望台から山崎・龍野を巡り帰宅
最終日は早起きして展望台へ。昨日より暖かく、雲海こそ出なかったけれど、遠くの空には雪をかぶった大山(だいせん)が浮かんだ。湯郷からバスで下って、兵庫県宍粟(しそう)市の山崎へ。ここは酒の町——山陽盃酒造でしぼりたてを手に入れ、酒粕ラーメンで体を温める。最上山公園もみじ山は、散りぎわの赤をまだたっぷり残していた。
山崎からバスを乗り継いで、たつの市・龍野へ。淡口(うすくち)醤油発祥の地にして、ここも重伝建の町だ。末廣やオオギイチの醤油蔵、醤油もろみの自販機、白壁に丸東マークを掲げたヒガシマルの資料館。龍野城にのぼって城下を見下ろし、しめはもちろん淡口のラーメン。あっさりなのに、こっちの方が塩分は多いというから不思議だ。
本竜野から電車で姫路へ。夜の街のむこうに、ライトアップされた姫路城の白がうかぶ。そこから山陽電車と阪神を乗り継いで三ノ宮・梅田へ——記録アプリのログを埋めるための遠回りのすえ、新幹線で深夜に帰宅した。眠りではじまり眠りでおわる、渋くて濃い二泊三日だった。
淡口醤油とたつの
たつの市龍野は、ヒガシマルや末廣をはじめとする醤油の町。色の淡い「淡口(うすくち)醤油」発祥の地として知られ、揖保川の軟水と地元の大豆・小麦、赤穂の塩が、澄んだ色の醤油を生んだ。色が淡いのに塩分はむしろ濃口より高い、というのが淡口のおもしろいところ。素材の色を活かす関西の料理に欠かせず、揖保乃糸のそうめんとともに、この町の食文化を支えてきた。城下の町並みは重要伝統的建造物群保存地区に選ばれている。